マクゴナガル教授は扉とびらまでつかつかと進みながら杖を上げた。杖先つえさきから、目の周りにメガネのような模様もようのある銀色の猫が三匹飛び出した。守しゅ護ご霊れいはしなやかに先を走り、マクゴナガル教授きょうじゅとハリーとルーナが螺ら旋せん階かい段だんを下りる間、階段を銀色の明かりで満たした。
三人が廊下ろうかを疾走しっそうしはじめると、守しゅ護ご霊れいは一匹ずつ姿を消した。マクゴナガル教授はタータンチェックの部屋着で床をすりながら走り、ハリーとルーナは「透明とうめいマント」に隠れて、そのあとを追った。
三人がそこからさらに二階下に降おりたとき、もう一つのひっそりした足音が加わった。まだ額ひたいの疼うずきを感じていたハリーが、最初にその足音を聞きつけた。「忍しのびの地ち図ず」を出そうと首から下げた巾着きんちゃくに触ふれたが、その前に、マクゴナガル教授も誰かがいることに気づいたようだった。立ち止まって杖つえを上げ、決闘けっとうの体勢を取りながら、マクゴナガル教授が言った。
「そこにいるのは誰です」
「我輩わがはいだ」低い声が答えた。甲冑かっちゅうの陰から、セブルス・スネイプが歩み出た。
その姿を見たとたん、ハリーの心に憎しみが煮にえたぎった。スネイプの犯した罪の大きさにばかり気を取られていたハリーは、スネイプの姿を見るまで、その外見の特徴とくちょうを思い出しもしなかった。ねっとりした黒い髪かみが、細長い顔の周りにすだれのように下がっていることも、暗い目が、死人のように冷たいことも忘れていた。スネイプは寝巻き姿ではなく、いつもの黒いマントを着て、やはり杖を構え、決闘の体勢を取っていた。
「カロー兄妹きょうだいはどこだ」スネイプは静かに聞いた。
「あなたが指示した場所だと思いますね、セブルス」マクゴナガル教授が答えた。
スネイプはさらに近づき、その視線はマクゴナガル教授を通り越して、素早く周りの空間に走っていた。まるでハリーがそこにいることを知っているかのようだ。ハリーも杖を構え、いつでも攻撃こうげきできるようにした。
「我輩の印象では」スネイプが言った。「アレクトが侵しん入にゅう者しゃを捕とらえたようだったが」
「そうですか」マクゴナガル教授が言った。「それで、なぜそのような印象を」
スネイプは左腕を軽く曲げた。その腕に、闇やみの印が刻印こくいんされているはずだ。
「ああ、当然そうでしたね」マクゴナガル教授が言った。「あなた方死し喰くい人びとが、仲間内の伝達手段をお持ちだということを、忘れていました」
スネイプは聞こえないふりをした。その目はまだマクゴナガル教授の周りを隈くまなく探り、まるで無意識のように振舞ふるまいながら、次第に近づいてきた。