「今夜廊下を見回るのが、あなたの番だったとは知りませんでしたな、ミネルバ」
「異い議ぎがおありですか」
「こんな遅い時間に起き出して、ここに来られたのは何故なにゆえですかな」
「何か、騒がしい物音が聞こえたように思いましたのでね」マクゴナガル教授が言った。
「はて 平穏へいおんそのもののようだが」スネイプはマクゴナガル教授の目をじっと見た。
「ハリー・ポッターを見たのですかな、ミネルバ 何とならば、もしそうなら、我輩はどうあっても――」
マクゴナガル教授きょうじゅは、ハリーが信じられないほど素早く動いた。その杖つえが空くうを切り、ハリーは一瞬いっしゅん、スネイプが気絶してその場に崩くずれ落ちたに違いないと思った。しかし、スネイプのあまりにも敏速びんそくな盾たての呪文じゅもんに、マクゴナガルは体勢を崩していた。マクゴナガルが壁かべの松明たいまつに向けて杖を振ふった。松明が腕木うでぎから吹き飛び、まさにスネイプに呪のろいをかけようとしていたハリーは、落下してくる炎からルーナをかばって引き寄せなければならなかった。松明は火の輪になって廊下ろうか一杯に広がり、投げ縄なわのようにスネイプ目がけて飛んだ――。
次の瞬間しゅんかん、火はもはや火ではなく、巨大な黒い蛇へびとなった。その蛇をマクゴナガルが吹き飛ばし、煙に変えた。煙は形を変えて固まり、あっという間に手しゅ裏り剣けんの雨となってスネイプを襲おそった。スネイプは甲冑かっちゅうを自分の前に押し出して、辛かろうじてそれを避よけた。手裏剣はガンガンと音を響ひびかせ、次々と甲冑の胸に刺さった――。
「ミネルバ」
キーキー声がした。飛び交かう呪文からルーナをかばいながらハリーが振り返ると、寝巻き姿のフリットウィック先生とスプラウト先生が、こちらに向かって廊下を疾走しっそうしてくるところだった。その後ろから、スラグホーン先生が巨体を揺ゆすり、あえぎながら追ってきた。
「やめろ」
フリットウィックが、杖を上げながらキーキー声で叫さけんだ。
「これ以上、ホグワーツで人を殺あやめるな」
フリットウィックの呪文が、スネイプの隠れている甲冑に当たった。すると甲冑がガチャガチャと動き出し、両腕でスネイプをがっちり締しめ上げた。それを振りほどいたスネイプが、逆に攻こう撃げき者しゃたち目がけて甲冑を飛ばせた。ハリーとルーナが、横っ跳びに飛んで伏せたとたん、甲冑は壁に当たって大破した。ハリーが再び目を上げたときには、スネイプは一いち目もく散さんに逃げ出し、マクゴナガル、フリットウィック、スプラウトがすさまじい勢いで追跡ついせきしていくところだった。スネイプは教室のドアから素早く中に飛び込み、その直後に、ハリーはマクゴナガルの叫ぶ声を聞いた。
「卑ひ怯きょう者もの 卑怯者」