「どうなったの どうなったの」ルーナが聞いた。
ハリーはルーナを引きずるようにして立たせ、二人で「透明とうめいマント」をなびかせながら廊下を走って、教室に駆かけ込んだ。がらんとした教室の中で、マクゴナガル、フリットウィック、スプラウトの三人の先生が、割れた窓のそばに立っていた。
「スネイプは飛び降おりました」
ハリーとルーナが教室に駆け込んでくると、マクゴナガル教授が言った。
「それじゃ、死んだ」
急に現れたハリーを見て、フリットウィックとスプラウトが、驚きの叫び声を上げるのも聞き流して、ハリーは窓際まどぎわに駆け寄った。
「いいえ、死んではいません」マクゴナガルは苦々にがにがしく言った。「ダンブルドアと違って、スネイプはまだ杖つえを持っていましたからね……それに、どうやらご主人様からいくつかの技を学んだようです」
学校の境界を仕切る塀へいに向かって闇やみを飛んでいく、巨大なコウモリのような姿を遠くに見て、ハリーは背筋せすじが寒くなった。
背後で重い足音がした。スラグホーンが、ハァハァと息を弾はずませて現れたところだった。
「ハリー」
エメラルド色の絹きぬのパジャマの上から、巨大な胸をさすり、スラグホーンがあえぎあえぎ言った。「なんとまあ、ハリー……これは驚いた……ミネルバ、説明してくれんかね……セブルスは……いったいこれは……」
「校長はしばらくお休みです」
窓にあいたスネイプの形をした穴を指差しながら、マクゴナガル教授きょうじゅが言った。
「先生」ハリーは、額ひたいに両手を当てて叫さけんだ。亡者もうじゃのうようよしている湖が足元を滑すべっていくのが見え、不気味な緑の小舟が地下の岸辺にぶつかるのを感じた。殺意に満ちて、ヴォルデモートが舟から飛び降りた――。
「先生、学校にバリケードを張らなければなりません。あいつが、もうすぐやって来ます」
「わかりました。『名前を言ってはいけないあの人』がやって来ます」
マクゴナガル教授が他の先生方に言った。スプラウトとフリットウィックは息を呑のみ、スラグホーンは低くうめいた。
「ポッターはダンブルドアの命令で、この城でやるべきことがあります。ポッターが必要なことをしている間、私たちは、能力の及ぶかぎりのあらゆる防御ぼうぎょを、この城に施ほどこす必要があります」
「もちろんおわかりだろうが、我々が何をしようと、『例のあの人』をいつまでも食い止めておくことはできないのだが」フリットウィックが、キーキー声で言った。
「それでも、しばらく止めておくことはできるわ」スプラウト先生が言った。
「ありがとう、ポモーナ」
マクゴナガル教授が言った。そして二人の魔女は、真剣な覚悟の眼差まなざしを交し合った。
「まず、我々がこの城に、基本的な防御を施すことにしましょう。それから、生徒たちを大おお広間ひろまに集めます。大多数の生徒は、避難ひなんしなければなりません。もし、成人に達した生徒が残って戦いたいと言うなら、チャンスを与えるべきだと思います」
「賛成」
スプラウト先生はもうドアのほうに急いでいた。
「二十分後に大広間で、私の寮りょうの生徒と一緒いっしょにお会いしましょう」