スプラウト先生は小走りでドアの外に姿を消したが、ブツブツつぶやく声は聞こえた。
「『食しょく虫ちゅう蔓づる』『悪魔あくまの罠わな』それにスナーガラフの種……そう、死し喰くい人びとが、こういうものと戦うところを拝見はいけんしたいものだわ」
「私はここから術をかけられる」
フリットウィックが言った。窓まで背が届かず、ほとんど外が見えない状態で、フリットウィックは壊こわれた窓越しに狙ねらいを定め、きわめて複雑ふくざつな呪文じゅもんを唱となえはじめた。ハリーはザワザワという不ふ思し議ぎな音を聞いた。それはまるで、フリットウィックが風の力を校庭に解とき放はなったかのようだった。
「フリットウィック先生」
ハリーは、小さな「呪じゅ文もん学がく」の先生に近づいて呼びかけた。
「先生、お邪魔じゃましてすみません。でも重要なことなんです。レイブンクローの髪飾かみかざりがどこにあるか、何かご存知ぞんじではありませんか」
「……プロテゴ ホリビリス 恐ろしきものから 守れ――レイブンクローの髪飾り」
フリットウィックが、キーキー声で言った。
「ポッター、ちょっとした余分の知恵があるのは、決して不都合なことではないが、このような状況で、それが役に立つとはとうてい思えんが」
「僕がお聞きしたいのは――それがどこにあるかだけです。ご存知ですか ご覧になったことはありますか」
「見たことがあるかじゃと 生きている者の記憶にあるかぎりでは、誰も見たものはない とっくの昔に失われた物じゃよ」
ハリーはどうしようもない失望感と焦しょう燥そう感かんの入り交じった気分になった。それなら、分ぶん霊れい箱ばこは、いったい何なのだろう
「フィリウス、レイブンクロー生と一いっ緒しょに、大おお広ひろ間までお会いしましょう」
マクゴナガル教授きょうじゅはそう言うと、ハリーとルーナに従ついてくるようにと手招きした。
三人がドアのところまで来たとき、スラグホーンがゆっくりとしゃべり出した。
「何たること」
スラグホーンは、汗だらけの青い顔にセイウチひげを震わせて、あえぎながら言った。
「何たる騒ぎだ 果たしてこれが賢明けんめいなことかどうか、ミネルバ、私には確信が持てない。いいかね、『あの人』は、結局は進入する道を見つける。そうなれば、『あの人』を阻はばもうとした者は皆、由ゆ々ゆしき危険にさらされる――」
「あなたもスリザリン生も、二十分後に大広間に来ることを期待します」マクゴナガル教授が言った。「スリザリン生と一緒にここを去るというなら、止めはしません。しかし、スリザリン生の誰かが、抵てい抗こう運うん動どうを妨害ぼうがいしたり、この城の中で武器を取って我々に歯は向むかおうとするなら、ホラス、そのときは、我々は死を賭として戦います」
「ミネルバ」スラグホーンは肝きもをつぶした。
「スリザリン寮りょうが、旗き幟しを鮮明せんめいにすべきときが来ました」
マクゴナガル教授きょうじゅが、何か言おうとするスラグホーンを遮さえぎって言った。
「生徒を起こしにいくのです、ホラス」