「おまえたちが、戦う準備じゅんびをしているのはわかっている」
生徒の中から悲鳴が上がり、何人かは互いにすがりつきながら、声の出所はどこかと怯おびえて周りを見回していた。
「何をしようがむだなことだ。俺おれ様さまには敵かなわぬ。おまえたちを殺したくはない。ホグワーツの教師きょうしに、俺様は多大な尊敬を払っているのだ。魔法族の血を流したくはない」
大おお広ひろ間まが静まり返った。鼓膜こまくを押しつける静けさ、四方の壁かべの中に封ふうじ込めるには大きすぎる静けさだ。
「ハリー・ポッターを差し出せ」
再びヴォルデモートの声が言った。
「そうすれば、誰も傷きずつけはせぬ。ハリー・ポッターを、俺様に差し出せ。そうすれば、学校には手を出さぬ。ハリー・ポッターを差し出せ。そうすれば、おまえたちは報むくわれる」
「真夜中、午前時まで待ってやる」
またしても、沈ちん黙もくが全員を飲み込んだ。その場の顔という顔が振り向き、目という目がハリーに注がれた。ギラギラした何千本もの見えない光線が、ハリーをその場に釘くぎづけにしているようだった。やがてスリザリンのテーブルから誰かが立ち上がり、震える腕を上げて叫さけんだ。
「あそこにいるじゃない ポッターはあそこよ 誰かポッターを捕まえて」
それがパンジー・パーキンソンだと、ハリーにはすぐわかった。
ハリーが口を開くより早く、周囲がどっと動いた。ハリーの前のグリフィンドール生が全員、ハリーに向かってではなくスリザリン生に向かって立ちはだかった。次にハッフルパフ生が立ち、ほとんど同時にレイブンクロー生が立った。全員がハリーに背を向け、パンジーに対たい峙じして、あちらでもこちらでもマントや袖そでの下から杖つえを抜いていた。ハリーは感かん激げきし、厳粛げんしゅくな思いに打たれた。
「どうも、ミス・パーキンソン」
マクゴナガル教授きょうじゅが、きっぱりと一蹴いっしゅうした。
「あなたは、フィルチさんと一いっ緒しょに、この大おお広ひろ間まから最初に出ていきなさい。ほかのスリザリン生は、そのあとに続いて出てください」
ハリーの耳に、ベンチが床を擦こする音に続いて、スリザリン生が大広間の反対側からぞろぞろと出ていく音が聞こえた。