ハリーは、両手で覆おおっていた目をぱっと見開いた。そして勢いよく台座から立ち上がり、最後の望みをかけて、いま来た道を矢のように駆かけ戻った。大だい理り石せきの階段に近づくにつれて、「必要の部屋」に向かって行進する何百人もの足音がだんだん大きくなってきた。監かん督とく生せいが大声で指示を出し、自分の寮の生徒たちをしっかり取り仕切ろうとしていた。どこもかしこも、押し合いへし合いだった。ザカリアス・スミスが、一年生を押し倒して列の前に行こうとしているのが見えた。あちこちで低学年の子どもたちが泣き、高学年の生徒たちは必死になって友達や弟妹きょうだいの名前を呼んでいた。
ハリーは白い真しん珠じゅのような姿が下の玄げん関かんホールに漂っているのを見つけ、騒がしさに負けないように声を張り上げて呼んだ。
「ニック ニック 君と話がしたいんだ」
ハリーは生徒の流れに逆らって進み、やっとのことで階段下にたどり着いた。グリフィンドール塔のゴースト、「ほとんど首無くびなしニック」が、そこでハリーを待っていた。
「ハリー、お懐なつかしい」ニックは両手でハリーの手を握ろうとした。ハリーは、両手を氷水に突っ込んだように感じた。
「ニック、どうしても君の助けが必要なんだ。レイブンクローの塔のゴーストは誰」
「ほとんど首無しニック」は、驚くと同時に、ちょっとむっとした顔をした。
「むろん、『灰色のレディ』ですよ。しかし、何かゴーストでお役に立つことをお望みなのでしたら――」
「そのレディじゃないとだめなんだ――どこにいるか知ってる」
「左様さよう……」
群れをなして移動する生徒の頭上をじっと見ながら、ニックがあちらこちらと向きを変えると、襞ひだ襟えりの上で首が少しぐらぐらした。
「あそこにいるのがそのレディです、ハリー。髪かみの長い、あの若い女性です」
ニックの透とう明めいな人差し指の示す先に、背の高いゴーストの姿が見えたが、レディはハリーが見ていることに気づいて眉まゆを吊つり上げ、固い壁かべを通り抜けて行ってしまった。
ハリーは追いかけた。消えたレディを追って、ハリーも扉とびらを通って廊下ろうかに出ると、その通路のいちばん奥をスイスイ滑すべりながら離れていくレディが見えた。
「おーい――待って――戻ってくれ」
レディは、床から十数センチのところに浮かんだまま、いったん止まってくれた。腰まで届く長い髪に、足元までの長いマントを着たレディは美しいようにも見えたが、同時に傲ごう慢まんで気位が高そうにも思えた。近づいてみると、話をしたことこそなかったが、ハリーが何度か廊下ですれ違ったことのあるゴーストだった。