「あなたが『灰色のレディ』ですか」
レディはうなずいたが、口をきかなかった。
「レイブンクローの塔とうのゴーストですか」
「そのとおりです」無ぶ愛あい想そうな答え方だった。
「お願いです。力を貸してください。失われた髪かみ飾かざりのことで教えていただけることがあったら、何でもかまいません、知りたいのです」
レディの口元に、冷たい微笑びしょうが浮かんだ。
「お気の毒ですが」レディは立ち去りかけた。「それはお助けできませんわ」
「待って」
叫さけぶつもりはなかったのに、怒りと衝撃しょうげきに打ちのめされそうになっていたハリーは、大声を出した。レディは止まって、ふわふわとハリーの前に浮かんだ。腕時計に目をやると、午前時まであと十五分だった。
「急を要することなんだ」ハリーは激はげしい口調で言った。「もしその髪飾りがホグワーツにあるなら、僕は探し出さなければならない。いますぐに」
「髪飾りをほしがった生徒は、あなたが初めてではない」レディは蔑さげすむように言った。「何世代もにわたって、生徒たちがしつこく聞いた――」
「よい成績を取るためなんかじゃない」
ハリーはレディに食ってかかった。
「ヴォルデモートにかかわることなんだ――ヴォルデモートを打ち負かすためなんだ――それともそんなことに、あなたは関心がないと言うのですか」
レディは赤くなることはできなかったが、透とう明めいの頬ほおが半はん透とう明めいになり、答える声が熱くなっていた。
「もちろんありますわ――なぜ、ないなどと――」
「それなら、僕を助けて」
レディの取り澄すました態度が乱れてきた。
「それ――それは、そういう問題ではなく――」レディが言いよどんだ。「私の母の髪かみ飾かざりは――」
「あなたのお母さんの」
レディは、自分に腹を立てているようだった。
「生せいありしとき」レディは堅かた苦くるしく言った。「私は、ヘレナ・レイブンクローでした」