「あなたがレイブンクローの娘 でも、それなら、髪飾りがどうなったのか、ご存知ぞんじのはずだ」
「髪飾りは、知恵を与える物ではあるが――」
レディは、明らかに落ち着きを取り戻そうと努力していた。
「果たしてそれが、あなたにとって、『あの人』を倒す可能性を大いに高める物かどうかは疑問です。自みずからを『卿きょう』と呼ぶ、あのヴォ――」
「もう言ったはずだ 僕はその髪飾りを被かぶるつもりはない」
ハリーは激はげしい口調で言った。
「説明している時間はない――でも、あなたがホグワーツのことを気にかけているなら、もしヴォルデモートが滅ほろぼされることを願っているなら、その髪飾りについて何でもいいからご存知のことを、話してください」
レディは宙に浮いたままハリーを見下ろして、じっとしていた。失望感がハリーを飲み込んだ。もしレディが何か知っているのなら、フリットウィックかダンブルドアに話していたはずだ。二人とも、レディにハリーと同じ質問をしたに違いないのだから。ハリーは頭を振って、踵きびすを返しかけた。そのとき、レディが小さな声で言った。
「私は、母からその髪飾りを盗みました」
「あなたが――何をしたんですって」
「私は髪飾りを盗みました」
ヘレナ・レイブンクローが囁ささやくように繰り返した。
「私は、母よりも賢かしこく、母よりも重要な人物になりたかった。私はそれを持って逃げたのです」
ハリーは、なぜ自分がレディの信頼を勝ち得たのかわからなかったが、理由を聞くのはやめた。ただ、レディが話し続けるのを、聞き漏もらすまいと耳を傾けた。
「母は、髪飾りを失ったことを決して認めず、まだ自分が持っているふりをしたと言われています。髪飾りがなくなったことも、私の恐ろしい裏切りのことも、ホグワーツの他の創そう始し者しゃたちにさえ秘密にしたのです」
「やがて母は病気になりました――重い病でした。私の裏切り行為こういにもかかわらず、母はどうしてももう一度だけ私に会いたいと、ある男に私を探させました。かつて私は、その男の申し出を撥はねつけたのですが、ずっと私に恋心を抱いていた男です。その男なら、私を探し出すまでは決してあきらめないことを、母は知っていたのです」
ハリーは黙だまって待った。レディは深く息を吸い、ぐっと頭を反そらせた。