「その男は、私が隠れていた森を探し当てました。私が一いっ緒しょに帰ることを拒こばむと、その人は暴力を振るいました。あの男爵だんしゃくは、カッとなりやすい性た質ちでしたから、私に断られて激怒げきどし、私が自由でいることを嫉妬しっとして、私を刺したのです」
「あの男爵 もしかして――」
「『血みどろ男爵』。そうです」
灰色のレディは、着ているマントを開いて、白い胸元に一箇所黒く残る傷きず痕あとを見せた。
「自分のしてしまったことを目のあたりにして、男爵は後こう悔かいに打ちひしがれ、私の命を奪うばった凶器きょうきを取り上げて、自らの命を絶ちました。この何世紀というもの、男爵は悔悟かいごの証あかしに鎖くさりを身につけています……当然ですわ」
レディは、最後の一言を、苦にが々にがしくつけ加えた。
「それで……髪飾かみかざりは」
「私を探して森をうろついている男爵の物音を聞いて、私がそれを隠した場所に置かれたままです。木の虚うろです」
「木の虚」ハリーが繰り返した。「どの木ですか どこにある木ですか」
「アルバニアの森です。母の手が届かないだろうと考えた、寂さびしい場所です」
「アルバニア」
ハリーはまた繰り返した。混乱した頭に、奇き跡せき的てきに閃ひらめくものがあった。レディが、ダンブルドアにもフリットウィックにも話さなかったことを、なぜハリーに打ち明けたのかがいまこそわかった。
「この話を、誰かにしたことがあるのですね 別の生徒に」
レディは目を閉じてうなずいた。
「私は……わからなかったのです……あの人が……お世せ辞じを言っているとは。あの人は、まるで……理解してくれたような……同情してくれたような……」
そうなのだ、とハリーは思った。トム・リドルなら、自みずからには所有権のない伝説の品物をほしがるという、ヘレナ・レイブンクローの気持を、たしかに理解したことだろう。
「ええ、リドルが言葉巧たくみに秘密を引き出した相手は、あなただけではありません」
ハリーはつぶやくように言った。
「あいつは、その気になれば、魅力みりょく的てきになれた……」