「大丈夫でえじょぶだ、ファング――大丈夫だっちゅうに」
ハグリッドが叫さけんだが、図体ばかりがでかいボアハウンド犬は、花瓶の破片はへんが榴りゅう散さん弾だんのように降ふってくる中を、一いち目もく散さんに逃げ出した。ハグリッドは怖気おじけづいた犬を追って、ハリーを一人残し、ドタドタと走り去った。
ハリーは杖つえを構え、揺れる通路を押し進んだ。その廊下の端から端まで、小柄こがらな騎士の絵のカドガン卿きょうが鎧をガチャつかせ、ハリーへの激げき励れいの言葉ことばを叫びながら絵から絵へと走り込んで従ついてきた。カドガン卿のあとからは、太った小さなポニーがトコトコと駆かけてきた。
「ほら吹きにゴロツキめ、犬に悪党め、追い出せ、ハリー・ポッター、追い払え」
廊下の角を素早く曲がったところで、フレッドと、リー・ジョーダン、ハンナ・アボットらの少数の生徒たちが、城に続く秘密の抜け穴を隠している像の、主のいない台座のそばに立っているのを見つけた。全員が杖つえを抜き、隠された穴の物音に耳を澄すましている。
「打ってつけの夜だぜ」
城がまた揺ゆれたとき、フレッドが叫さけんだ。ハリーは高こう揚よう感かんと恐怖きょうふが交じり合った気持で、その傍かたわらを駆かけ抜けた。次の廊下ろうかを全力疾走しっそうしているときに、あたりがふくろうだらけになった。ミセス・ノリスが威い嚇かく的てきな鳴き声を上げながら、前まえ脚あしで叩たたき落そうとしていた。ふくろうを収まるべき場所に戻そうとしていたに違いない……。
「ポッター」
アバーフォース・ダンブルドアが、杖を構えて、行く手に立ちふさがっていた。
「俺おれのパブを、何百人という生徒が雪崩なだれを打って通り過ぎていったぞ、ポッター」
「知っています。避難ひなんしたんです」ハリーが言った。「ヴォルデモートが――」
「――襲撃しゅうげきしてくる。おまえを差し出ワーツの戦い(12)