ハリーはトンクスを見た。
「トンクス、お母さんのところで、テディと一いっ緒しょのはずじゃなかったの」
「あの人の様子がわからないのに、耐たえられなくて――」
トンクスは苦渋くじゅうをにじませながら言った。
「テディは、母が面倒を見てくれるわ――リーマスを見かけた」
「校庭で戦うグループを指し揮きする手はずだったけど――」
トンクスは、それ以上一言も言わずに走り去った。
「ジニー」ハリーが言った。「すまないけど、外に出ていてほしいんだ。ほんの少しの間だ。そのあとでまた戻ってきていいよ」
ジニーは、保ほ護ごされた場所から出られることが、うれしくてしかたがない様子だった。
「あとでまた戻ってきていいんだからね」
トンクスを追って駆かけ上がっていくジニーの後ろ姿に向かって、ハリーが叫さけんだ。
「戻ってこないといけないよ」
「ちょっと待った」ロンが鋭い声を上げた。「僕たち、誰かのことを忘れてる」
「誰」ハーマイオニーが聞いた。
「屋敷やしきしもべ妖よう精せいたち。全員下の厨房ちゅうぼうにいるんだろう」
「しもべ妖精たちも、戦わせるべきだっていうことか」ハリーが聞いた。
「違う」ロンがまじめに言った。「脱出するように言わないといけないよ。ドビーの二の舞は見たくない。そうだろ 僕たちのために死んでくれなんて、命令できないよ――」
ハーマイオニーの両腕から、バジリスクの牙きばがバラバラ音を立てて落ちた。ロンに駆かけ寄り、その両腕をロンの首に巻きつけて、ハーマイオニーはロンの唇くちびるに熱ねつ烈れつなキスをした。ロンも、持っていた牙と箒ほうきを放ほうり投げ、ハーマイオニーの体を床から持ち上げてしまうほど夢中になって、キスに応こたえた。
「そんなことをしてる場合か」
ハリーが力なく問いかけた。しかしハリーの言葉に応えることもなく、ロンとハーマイオニーはますます固く抱き合ったままその場で体を揺ゆらしていたので、ハリーは声を荒らげた。
「おい 戦いの真っ最中だぞ」
ロンとハーマイオニーは離れたが、両腕を互いに回し合ったままだった。
「わかってるさ」
ロンは、ブラッジャーで後頭部をぶん殴なぐられたばかりのような顔で言った。
「だからもう、いまっきりないかもしれない。だろ」
「そんなことより、分ぶん霊れい箱ばこはどうなる」ハリーが叫さけんだ。「悪いけど、君たち――髪かみ飾かざりを手に入れるまで、我慢がまんしてくれないか」
「うん――そうだ――ごめん」
ロンが言った。ロンとハーマイオニーは、二人とも顔を赤らめて牙を拾いはじめた。