「どうしましょう」
ハーマイオニーが、耳を聾ろうする炎の轟ごう音おんの中で叫んだ。
「どうしたらいいの」
「これだ」
ハリーはいちばん手近なガラクタの山から、がっしりした感じの箒ほうきを二本つかんで、一本をロンに放ほうった。ロンはハーマイオニーを引き寄せて後ろに乗せ、ハリーは二本目の箒にぱっと跨またがった。三人は強く床を蹴けり、宙に舞い上がった。噛かみつこうとする炎の猛もう禽きんのとげとげした嘴くちばしは、ほんの二、三十センチのところで獲物えものを逃した。煙と熱は耐たえ難い激はげしさだった。眼下では呪いの炎が、お尋たずね者ものの生徒たちが何世代にもわたって持ち込んだ禁きん制せい品ひんを、何千という禁じられた実験の罪深い結果を、そしてこの部屋に避難ひなんした数えきれない人々の秘密を焼き尽くしていた。マルフォイやクラッブ、ゴイルは、影も形も見えない。ハリーは、三人を探して、略奪りゃくだつの炎の怪獣すれすれまで舞い降おりたが、見えるのは炎ばかりだった。なんて酷むごい死に方だ……ハリーは、こんな結果を望んではいなかった……。
「ハリー、脱出だ、脱出するんだ」
ロンが叫さけんだが、黒煙の立ち込める中で、扉とびらがどこにあるのか見えなかった。
そのとき、ハリーは、大混乱のただ中に、燃え盛る轟ごう々ごうたる音の中に、弱々しく哀あわれな叫び声を聞きつけた。
「そんなこと――危険――すぎる――」
ロンの叫びを背後に聞きながら、ハリーは空中旋せん回かいしていた。メガネのおかげで煙から多少は護まもられ、ハリーは眼下の火の海を隅くまなく見回した。誰かが生きている徴しるしはないか、手足でも顔でもいい、まだ炭になっていないものはないか……。
見えた。マルフォイが、気を失ったゴイルを両腕で抱えたまま、焦こげた机の積み重なった、いまにも崩くずれそうな塔とうの上に乗っていた。ハリーは突っ込んだ。マルフォイはハリーがやって来るのを見て、片腕を上げた。ハリーはその腕をつかんだが、これではだめだとすぐわかった。ゴイルが重すぎる。それに、汗まみれのマルフォイの手は、すぐにハリーの手から滑すべり落ちた――。