しかし、ハーマイオニーは言葉を切った。叫さけび声や悲鳴が聞こえ、まぎれもない戦いの物音が廊下ろうか一杯に聞こえはじめたからだ。周りを見回して、ハリーはどきりとした。死し喰くい人びとがホグワーツに侵入しんにゅうしていた。仮面とフードを被かぶった男たちと、それぞれ一いっ騎き打うちしているフレッドとパーシーの後ろ姿が見えた。
ハリーもロンもハーマイオニーも、加勢かせいに走った。閃せん光こうがあらゆる方向に飛び交い、パーシーの一騎打ちの相手が急いで飛び退のいた。とたんにフードが滑すべり落ちて、飛び出した額ひたいとすだれ状じょうの髪が見えた――。
「やあ、大臣」
パーシーがまっすぐシックネスに向けて、見事な呪のろいを放はなった。シックネスは杖つえを取り落とし、ひどく気持が悪そうにローブの前をかきむしった。
「辞職じしょくすると申し上げましたかね」
「パース、ご冗談じょうだんを」
自分の一騎打ちの相手が、三方向からの「失しっ神しんの呪じゅ文もん」を受けて倒れたところで、フレッドが叫んだ。シックネスは、体中から小さな棘とげを生はやして床に倒れた。どうやらウニのようなものに変身していく様子だった。フレッドはパーシーを見て、うれしそうににやっと笑った。
「パース、マジ冗談言ってくれるじゃないか……おまえの冗談なんか、いままで一度だって――」
空気が爆発した。全員が一いっ緒しょだったのに――ハリー、ロン、ハーマイオニー、フレッド、パーシー、そして死喰い人たち。「失神」した一人に、「変身へんしん」して足元に倒れている死喰い人一人も含めて、みんな一緒だったのに。一瞬いっしゅんのうちに、危険が一時的に去ったと思ったその一瞬のうちに、世界が引き裂さかれた。ハリーは空中に放ほうり出されるのを感じた。唯ゆい一いつの武器である細い一本の棒をしっかり握り、両腕で頭をかばうことしかできなかった。仲間の悲鳴や叫びは聞こえても、その人たちがどうなったかは知るよしもない――。
引き裂さかれた世界は、やがて収まり、薄うす暗ぐらい、痛みに満ちた世界に変わった。ハリーの体は、猛もう攻こう撃げきを受けた廊下ろうかの残ざん骸がいに半分埋まっていた。冷たい空気で、城の側そく壁へきが吹き飛ばされたことがわかり、頬ほおに感じる生温かいねっとりしたもので、ハリーは自分が大量に出血していることを知った。そのとき、ハリーは内臓を締しめつけるような悲しい叫さけびを聞いた。炎も呪のろいも、こんな苦痛の声を引き出すことはできない。ハリーはふらふらと立ち上がった。その日一日で、こんなに怯おびえたことはない、たぶんいままでの人生で、こんなに怖こわかったことはない……。
ハーマイオニーが、瓦礫がれきの中からもがきながら立ち上がった。壁かべが吹き飛ばされた場所の床に、三人の赤毛の男が肩を寄せ合っていた。ハリーはハーマイオニーの手を取って、二人で石や板の上をよろめきつまずきながら近づいた。
「そんな――そんな――そんな」誰かが叫んでいた。「ダメだ フレッド ダメだ」
パーシーが弟を揺ゆすぶり、その二人の脇わきにロンがひざまずいていた。フレッドの見開いた両目は、何も見てはいない。最後の笑いの名残なごりが、その顔に刻きざまれたままだった。