世界の終わりが来た。それなのになぜ戦いをやめないのか なぜ城が恐怖きょうふで静かにならず、戦う者全員が武器を捨てないのか ハリーは、ありえない現実が飲み込めず、心は奈落ならくへと落ちていった。フレッド・ウィーズリーが死ぬはずはない。自分の感覚のすべてが嘘うそをついているのだ――。
そのとき、爆破ばくはで側壁そくへきにあいた穴から、誰かが上から落下していくのが見えた。暗闇くらやみから呪のろいが飛び込んできて、みんなの頭の後ろの壁かべに当たった。
「伏せろ」
ハリーが叫さけんだ。呪いが闇の中から次々と飛び込んできていた。ハリーとロンが同時にハーマイオニーを引っ張って、床に伏せさせた。パーシーはフレッドの死体の上に覆おおいかぶさり、これ以上弟を傷きずつけさせまいとしていた。
「パーシー、さあ行こう。移動しないと」
ハリーが叫んだが、パーシーは首を振った。
「パーシー」
ロンが、兄の両肩をつかんで引っ張ろうとした。煤すすと埃ほこりで覆われたロンの顔に、幾筋いくすじもの涙の跡あとがついているのをハリーは見た。しかしパーシーは動かなかった。
「パーシー、フレッドはもうどうにもできない 僕たちは――」
ハーマイオニーが悲鳴を上げた。振り返ったハリーは、理由を聞く必要がなくなった。小型自動車ほどの巨大な蜘く蛛もが、側壁の大きな穴から這はい入ろうとしていた。アラゴグの子孫の一匹が、戦いに加わったのだ。
ロンとハリーが、同時に呪文じゅもんを叫んだ。呪文が命中し、怪物蜘蛛は仰向あおむけに吹っ飛んで、肢あしを気味悪くピクピク痙攣けいれんさせながら闇に消えた。
「仲間を連れてきているぞ」
呪いで吹き飛ばされた穴から、城の端はしをちらりと見たハリーが、みんなに向かって叫んだ。「禁きんじられた森もり」から解放かいほうされた巨大蜘蛛が、次々と城壁じょうへきを這い登ってくる。死し喰くい人びとたちは、「禁じられた森」に侵入しんにゅうしたに違いない。ハリーは大蜘蛛に向けて「失神しっしんの呪文じゅもん」を発射はっしゃし、先頭の怪物を、這い登ってくる仲間の上に転落させた。大蜘蛛はすべて壁から転げ落ち、姿が見えなくなった。そのときハリーの頭上を、いくつもの呪いが飛び越していった。すれすれに飛んでいった呪文の力で、髪かみが巻き上げられるのを感じた。