「移動だ。行くぞ」
ハーマイオニーを押してロンと一緒いっしょに先に行かせ、ハリーは屈かがんでフレッドの腋わきの下を抱え込んだ。ハリーが何をしようとしているのかに気づいたパーシーは、フレッドにしがみつくのをやめて手伝った。身を低くし、校庭から飛んでくる呪いをかわしながら、二人は力を合わせてフレッドの遺体いたいをその場から移動させた。
「ここに」ハリーが言った。
二人は、甲冑かっちゅうが吹き飛ばされたあとの壁かべの窪くぼみにフレッドの遺体いたいを置いた。ハリーは、それ以上フレッドを見ていることに耐たえられず、遺体がしっかり隠されていることを確かめてから、ロンとハーマイオニーを追った。廊下ろうかはもうもうと埃ほこりが立ち込め、石が崩くずれ落ち、窓ガラスはとっくになくなっていた。マルフォイとゴイルの姿はもうなかったが、廊下の端はしでハリーは敵とも味方とも見分けのつかない大勢の人間が走り回っているのを目にした。
「ルックウッド」
角を曲がったところで、パーシーが牡牛おうしのようなうなり声を上げ、生徒二人を追いかけている背の高い男に向かって突進した。
「ハリー、こっちよ」ハーマイオニーが叫さけんだ。
ハーマイオニーは、ロンをタペストリーの裏側うらがわに引っ張り込んでいた。二人が揉もみ合っているように見えたので、ハリーは一瞬いっしゅん変に勘かんぐって二人がまた抱き合っていたのではないかと思った。しかし、ハーマイオニーは、パーシーを追って駆かけ出そうとするロンを抑おさえようとしていたのだった。
「言うことを聞いて――ロン、聞いてよ」
「加勢かせいするんだ――死し喰くい人びとを殺してやりたい――」
埃と煤すすで汚れたロンの顔はくしゃくしゃに歪ゆがみ、体は怒りと悲しみでわなわなと震えていた。
「ロン、これを終わらせることができるのは、私たちのほかにはいないのよ お願い――ロン――あの大蛇だいじゃが必要なの。大蛇を殺さないといけないの」ハーマイオニーが言った。
しかしハリーには、ロンの気持がわかった。もう一つの分ぶん霊れい箱ばこを探すことでは、仕返ししたい気持を満たすことはできない。ハリーも戦いたかった。フレッドを殺したやつらを懲こらしめてやりたかった。それに、ウィーズリー一家のほかの人たちの無事を確かめたかった。とりわけ、間違いなくジニーがまだ――ハリーはそのあとの言葉を考えることさえ、耐たえられなかった――。
「私たちだって戦うのよ、絶対に」ハーマイオニーが言った。「戦わなければならないの。あの蛇へびに近づくために でも、いま、私たちが何をすべきか、み――見失わないで すべてを終わらせることができるのは、私たちしかいないのよ」
ハーマイオニーも泣いていた。説得しながら、焼け焦こげて破れた袖そでで、ハーマイオニーは顔を拭ぬぐった。そして、ロンをしっかりつかんだまま、ハーマイオニーはフーッと深呼吸して自分を落ち着かせ、ハリーを見た。
「あなたは、ヴォルデモートの居場所を見つけないといけないわ。だって、大蛇はあの人が連れているんですもの。そうでしょう さあ、やるのよ、ハリー――あの人の頭の中を見るのよ」
どうしてそう簡単にそれができたのだろう 傷痕きずあとが何時間も前から焼けるように痛み、ヴォルデモートの想念そうねんを見せたくてしかたがなかったからだろうか ハーマイオニーに言われるままハリーが目を閉じると、叫さけびや爆発音や、すべての耳障みみざわりな戦いの音は次第に消えていき、ついには遠くに聞こえる音になった。まるでみんなから遠く離れたところに立っているかのようだった……。