彼は陰気な、しかし奇妙きみょうに見覚えのある部屋の真ん中に立っていた。壁紙かべがみは剥はがれ、一箇所を除いて窓という窓には板が打ちつけてある。城を襲撃しゅうげきする音はくぐもって、遠くに聞こえた。板のないただ一つの窓から、城の立つ場所に遠い閃光せんこうが見えてはいたが、部屋の中は石油ランプ一つしかなく暗かった。
杖つえを指で回して眺ながめながら、頭の中は、城のあの「部へ屋や」のことを考えていた。彼だけが見つけることのできた、秘められたあの「部屋」。「秘密ひみつの部屋」と同じように、あの「部屋」を見つけるには、賢かしこく、狡猾で、好こう奇き心しんが強くなければならぬ……あの小僧こぞうには髪飾かみかざりは見つけられぬ、と彼には自信があった……しかし、ダンブルドアの操あやつり人形めは、予想もしなかったほど深く進んできた……あまりにも深く……。
「わが君」
取りすがるような、しわがれた声に呼ばれて、彼は振り向いた。いちばん暗い片隅かたすみに、ルシウス・マルフォイが座っていた。ボロボロになり、例の男の子の最後の逃とう亡ぼうのあとに受けた懲ちょう罰ばつの痕あとがまだ残っている。片方の目が腫はれ上がって、閉じられたままだった。
「わが君……どうか……私の息子は……」
「おまえの息子が死んだとしても、ルシウス、俺様おれさまのせいではない。スリザリンのほかの生徒のように、俺様の許もとに戻っては来なかった。おそらく、ハリー・ポッターと仲良くすることに決めたのではないか」
「いいえ――決して」ルシウスは囁ささやくような声で言った。
「そうではないように望むことだな」
「わが君は――わが君は、ご心配ではありませんか ポッターが、わが君以外の者の手にかかって死ぬことを」
ルシウスが声を震わせて聞いた。
「差し出がましく……お許しください……戦いを中止なさり、城に入られて、わが――わが君ご自身がお探しになるほうが……賢明けんめいだとは思おぼし召めされませんか」
「偽いつわってもむだだ、ルシウス。おまえが停戦ていせんを望むのは、息子の安否を確かめたいからだろう。俺様にはポッターを探す必要はない。夜の明ける前に、ポッターのほうで俺様を探し出すだろう」
ヴォルデモートは、再び指に挟はさんだ杖に目を落とした。気に入らぬ……ヴォルデモート卿きょうを煩わずらわすものは、何とかせねばならぬ……。
「スネイプを連れてこい」
「スネイプ わ――わが君」
「スネイプだ。すぐに。あの者が必要だ。一つ――務つとめを――果たしてもらわねばならぬ。行け」