三人の足下の階段が平らな滑すべり台になった。ハーマイオニーもハリーもロンも、速度を抑おさえることもできずに、矢のように滑り降おりた。あまりの速さに、死し喰くい人びとの放はなった「失神しっしんの呪じゅ文もん」は三人のはるか頭上を飛んでいき、階段下を覆おおい隠かくしているタペストリーを射い抜ぬいて床で跳ね返り、反対側の壁かべに当たった。
「デューロ 固まれ」
ハーマイオニーがタペストリーに杖つえを向けて叫んだ。タペストリーは石になり、その裏側うらがわでグシャッという強烈きょうれつな衝しょう突とつ音おんが二つ聞こえた。三人を追ってきた死喰い人たちは、タペストリーの向こう側でくしゃくしゃになったらしい。
「避よけろ」
ロンの叫びで、ハリーもハーマイオニーも、ロンと一緒いっしょに扉とびらに張りついた。その脇わきを、マクゴナガル教授きょうじゅに率ひきいられた机の群れが、全力疾しっ走そうで怒涛どとうのごとく駆かけ抜けていった。マクゴナガルは、三人に気づかない様子だった。髪かみはほどけ、片方の頬ほおには深手を負っている。角を曲がりながらマクゴナガルの叫ぶ声が聞こえた。
「突撃とつげきっ」
「ハリー、『マント』を着て」ハーマイオニーが言った。「私たちのことは気にせずに――」
しかし、ハリーは、透明とうめいマントを三人に着せかけた。三人一緒いっしょでは大きすぎて覆いきれなかったが、あたりは埃ほこりだらけだし、石が崩くずれ落ちて呪文の揺ゆらめき光る中では、胴体のない足だけを見る者は誰もいないだろう、とハリーは思った。
三人が次の階段を駆け下りると、下の廊下ろうかは右も左も戦いの真っ最中だった。生徒も先生も、仮面を着けたままの、あるいは外はずれてしまった死喰い人を相手に戦っていた。両脇の肖像しょうぞう画がには絵の主たちがぎっしり詰まって、大声で助言したり応援したりしていた。ディーンはどこからか奪うばった杖でドロホフに一騎いっきで立ち向かい、パーバティはトラバースと戦っていた。ハリー、ロン、ハーマイオニーはすぐに杖を構え攻撃こうげきしようとしたが、戦っている者同士がジグザグと目にも止まらぬ速さで動き回っていて、呪文をかければ味方を傷きずつけてしまう恐れが大きかった。緊張きんちょうして杖を構えたまま好機を待っていると、「ウィィィィィィィィィィィィ」と大きな音がした。ハリーが見上げると、ピーブズがブンブン飛び回り、スナーガラフの種を死喰い人の頭上に落としているのが見えた。種が割れ、太ったイモムシのような緑色の塊茎かいけいが、ごにょごにょと死喰い人の頭を覆った。