「やめてぇぇ」
叫び声を上げたハーマイオニーの杖つえから、大だい音おん響きょうとともに呪文が飛んだ。弱々しく動いているラベンダー・ブラウンの体からのけぞって吹き飛ばされたのは、フェンリール・グレイバックだった。グレイバックは大理石の階段の手すりにぶつかり、立ち上がろうともがいた。そのとき、白く輝く水すい晶しょう玉だまがフェンリールの頭にバーンと落ちて割れた。フェンリールは倒れて、体を丸めたまま動かなくなった。
「まだありますわよ」
欄干らんかんから身を乗り出したトレローニー先生が、甲高かんだかい声で叫んだ。
「お望みの方には、もっと差し上げますわ 行きますわよ――」
トレローニー先生は、テニスのサーブのような動作で、バッグから取り出したもう一個の巨大な水晶玉を持ち上げ、杖を振るって飛ばせた。水晶玉は玄関ホールを横切って、窓をぶち割った。そのとき、玄関げんかんの重い木の扉とびらがパッと開き、巨大蜘ぐ蛛もの群れが玄関ホールに雪な崩だれ込んできた。
恐怖きょうふの悲鳴が空気を引き裂さき、戦っていた死し喰くい人びともホグワーツ隊もバラバラになった。押し寄せる怪物に向かって、赤や緑の閃光せんこうが飛び、巨大蜘蛛は身震いして後あと肢あし立だちになり、いっそう恐ろしい姿になった。
「どうやって外に出る」悲鳴の渦うずの中で、ロンが叫さけんだ。
ハリーとハーマイオニーが返事をするより前に、三人とも突き飛ばされた。花はな柄がら模も様ようのピンクの傘かさを振ふり回しながら、ハグリッドが嵐のごとく階段を駆かけ下りてきていた。
「こいつらを傷きずつけねえでくれ 傷つけねえでくれ」ハグリッドが叫んだ。
「ハグリッド、やめろ」
何もかも忘れて、「マント」から飛び出したハリーは、玄関ホールを明るく照らし出すほど飛び交う呪のろいを避よけ、体を屈かがめて走った。