「ハグリッド、戻るんだ」
しかし、まだ半分も追いつかないうちに、ハリーの目の前で、事は起こった。ハグリッドの姿が巨大蜘蛛の群れの中に消えた。呪いに攻め立てられた大蜘蛛の群れは、ガサガサと音を立てて、ハグリッドを飲み込んだまま、うじゃうじゃと退却たいきゃくしはじめた。
「ハグリッド」
ハリーは、誰かが自分の名前を呼ぶ声を聞いた。敵か味方か、しかしどうでもよかった。ハリーは、玄関の階段を校庭へと駆け下りた。巨大蜘蛛の群れは、獲物えものもろともうじゃうじゃと遠ざかり、ハグリッドの姿はまったく見えなかった。
「ハグリッド」
ハリーは、巨大な片腕が、大蜘蛛の群れの中で揺ゆれ動くのを見たような気がした。しかし、群れを追いかけるハリーを、途方もない巨大な足が阻はばんだ。暗闇くらやみの中からドシンと踏ふみ下ろされたその足は、ハリーの立っている地面を震わせた。見上げると、六メートル豊かの巨人が立っていた。頭部は暗くて見えず、大木のような毛脛けずねだけが、城の扉からの明かりで照らし出されている。巨大な拳こぶしが滑なめらかに動き、強烈きょうれつな一殴ひとなぐりで上階の窓を打ち壊こわした。雨のように降ふりかかるガラスを避よけて、ハリーは玄関ホールの入口に退却せざるをえなかった。
「ああ、なんてことを――」
ロンと一緒いっしょにハリーを追ってきたハーマイオニーが、巨人を見上げて悲鳴を上げた。こんどは巨人が、上階の窓から中の人間を捕まえようとしていた。
「やめろ」
杖つえを上げたハーマイオニーの手を押さえて、ロンが叫んだ。
「『失神しっしん』なんかさせたら、こいつは城の半分をつぶしちまう――」
「ハガー」
城の角の向こうから、グロウプがうろうろとやって来た。いまになってようやく、ハリーは、グロウプが、たしかに小柄こがらな巨人なのだと納得した。上階の人間どもを押しつぶそうとしていた、とてつもなく大きな巨人が、あたりを見回して一声吼ほえた。小型巨人に向かっていく大型巨人の足音は、ドスンドスンと石の階段を震わせた。グロウプはひん曲がった口をぽかんと開け、レンガの半分ほどもある黄色い歯を見せていた。そして二人の巨人は、双方そうほうから獅し子しのように獰猛どうもうに飛びかかった。