「逃げろ」ハリーが叫さけんだ。
巨人たちの取っ組み合う恐ろしい叫び声と殴なぐり合いの音が、夜の闇やみに響ひびき渡った。ハリーはハーマイオニーの手を取り、石段を駆かけ下りて校庭に出た。ロンがしんがりを務つとめた。ハリーはまだ、ハグリッドを見つけ出して救出する望みを捨ててはいなかった。全速力で走り続け、たちまち禁じられた森までの半分の距離を駆け抜けたが、そこでまた行く手を阻はばまれた。
周りの空気が凍こおった。ハリーの息は詰まり、胸の中で固まった。暗闇くらやみから現れた姿は、闇よりもいっそう黒く渦巻うずまき、城に向かって大きな波のようにうごめいて移動していた。顔はフードで覆おおわれ、ガラガラと断だん末まつ魔まの息を響かせ……。
ロンとハーマイオニーが、ハリーの両脇りょうわきに寄り添そった。背後の戦闘せんとうの音が急にくぐもり、押し殺され、吸きゅう魂こん鬼きだけがもたらすことのできる重苦しい静寂せいじゃくが、夜の闇をすっぽりと覆いはじめた……。
「さあ、ハリー」ハーマイオニーの声が遠くから聞こえてきた。「守しゅ護ご霊れいよ、ハリー、さあ」
ハリーは杖つえを上げたが、どんよりとした絶望感が体中に広がっていた。フレッドは死んだ。そしてハグリッドは間違いなく死にかけているか、もう死んでしまった。ハリーの知らないところで、あと何人が死んでしまったことだろう。ハリー自身の魂たましいが、もう半分肉体を抜け出してしまったような気がした……。
「ハリー、早く」ハーマイオニーが悲鳴を上げた。
百体を超える吸魂鬼が、こちらに向かってスルスルと進んできた。ハリーの絶望感を吸い込みながら近づいてくる。約束されたご馳走ちそうに向かって……。
ロンの銀のテリアが飛び出し、弱々しく明滅めいめつして消えるのが見えた。ハーマイオニーのカワウソが空中でよじれて消えていくのが見えた。ハリー自身の杖は、手の中で震えていた。ハリーは近づいてくる忘却ぼうきゃくの世界を、約束された虚無きょむと無感覚を、むしろ歓迎かんげいしたいほどだった……。
しかしそのとき、銀の野ウサギが、猪いのししが、そして狐きつねが、ハリー、ロン、ハーマイオニーの頭上を越えて舞い上がった。吸魂鬼は近づく銀色の動物たちの前に後退こうたいした。暗闇からやってきた三人が、杖を突き出し、守護霊を出し続けながら、ハリーたちのそばに立った。ルーナ、アーニー、シェーマスだった。