ハリーは全速力で走った。死をさえ追い越すことができるのではないかと、半なかばそんな気持になりながら、周りの闇に飛び交う閃光を無視して走った。海の波のように岸を洗う湖水の音も、風もない夜なのに軋きしむ「禁じられた森」の音も無視して走った。地面さえも反乱に立ち上がったような校庭を、これまでにこんなに速く走ったことはないと思えるほど速く走った。そして、ハリーが真っ先にあの大木を目にした。根元の秘密を守って、鞭むちのように枝を振り回す「暴あばれ柳やなぎ」を。
ハリーは、あえぎながら走る速度を緩ゆるめ、暴れる柳の枝を避よけながら、古木を麻ま痺ひさせるたった一箇所の樹皮じゅひの瘤こぶを見つけようと、闇やみを透すかしてその太い幹を見た。ロンとハーマイオニーが追いついてきたが、ハーマイオニーは息が上がって、話すこともできないほどだった。
「どう――どうやって入るつもりだ」ロンが息を切らしながら言った。「その場所は――見えるけど――クルックシャンクスさえ――いてくれれば――」
「クルックシャンクス」
ハーマイオニーが体をくの字に曲げ、胸を押さえてヒーヒー声で言った。
「あなたは、それでも魔法使いなの」
「あ――そうか――うん――」
ロンは周りを見回し、下に落ちている小枝に杖つえを向けて唱となえた。
「ウィンガーディアム レビオーサ 浮遊ふゆうせよ」
小枝は地面から飛び上がり、風に巻かれたようにくるくる回ったかと思うと、暴れ柳の不気味に揺ゆれる枝の間をかいくぐって、まっすぐに幹に向かって飛んだ。小枝が根元近くの一か所を突くと、身悶みもだえしていた樹はすぐに静かになった。
「完璧かんぺきよ」ハーマイオニーが、息を切らしながら言った。
「待ってくれ」