ほんの一瞬いっしゅんの迷いがあった。戦いの衝しょう撃げき音おんや炸さく裂れつ音おんが鳴り響ひびいているその一瞬、ハリーはためらった。ヴォルデモートの思惑おもわくは、ハリーがこうすることであり、ハリーがやって来ることだった……自分は、ロンとハーマイオニーを罠わなに引き込もうとしているのではないだろうか
しかし、その一方、残酷ざんこくで明白な現実が迫せまっていた。前進する唯一ゆいいつの道は、大蛇だいじゃを殺すことであり、その蛇へびはヴォルデモートとともにある。そしてヴォルデモートは、このトンネルの向こう側にいる……。
「ハリー、僕たちも行く。とにかく入れ」ロンがハリーを押した。
ハリーは、樹の根元に隠された土のトンネルに体を押し込んだ。前に入り込んだときより、穴はずっときつくなっていた。トンネルの天井は低く、四年ほど前には体を曲げればなんとか歩けたのに、こんどは這はうしかなかった。杖灯つえあかりを点つけ、ハリーが先頭を進んだ。いつ何どき、行く手を阻はばむものに出会うかもしれないと覚悟していたが、何も出てこなかった。三人は黙もく々もくと移動した。ハリーは、握った杖の先に揺れる一筋ひとすじの灯りだけを見つめて進んだ。
トンネルがようやく上り坂になり、ハリーは行く手に細長い明かりを見た。ハーマイオニーが、ハリーのかかとを引っ張った。
「『マント』よ」ハーマイオニーが囁ささやいた。「この『マント』を着て」
ハリーは後ろを手探りした。ハーマイオニーは、杖つえを持っていないほうのハリーの手にサラサラと滑すべる布を丸めて押しつけた。ハリーは動きにくい姿勢のままなんとかそれを被かぶり、「ノックス 闇やみよ」と唱となえて杖灯つえあかりを消した。そして、這はったまま、できるだけ静かに前進した。いまにも見つかりはしないか、冷たく通る声が聞こえはしないか、緑の閃光せんこうが見えはしないかと、ハリーは全神経を張りつめていた。
するとそのとき、前方の部屋から話し声が聞こえてきた。トンネルの出口が梱こん包ぽう用ようの古い木箱のようなものでふさがれているので、少しくぐもった声だった。息をすることも我慢がまんしながら、ハリーは出口の穴ぎりぎりのところまでにじり寄り、木枠きわくと壁かべの間に残されたわずかな隙間すきまから覗のぞき見た。