前方の部屋はぼんやりとした灯あかりに照らされ、海蛇うみへびのようにとぐろを巻いてゆっくり回っているナギニの姿が見えた。星をちりばめたような魔法の球体の中で、安全にぽっかりと宙に浮いている。テーブルの端はしと、杖をもてあそんでいる長く青白い指が見えた。そのとき、スネイプの声がして、ハリーは心臓がぐらりと揺ゆれた。スネイプは、ハリーが屈かがんで隠れているところから、ほんの数センチ先にいた。
「……わが君、抵てい抗こう勢せい力りょくは崩くずれつつあります――」
「――しかも、おまえの助けなしでもそうなっている」
ヴォルデモートが甲高かんだかいはっきりした声で言った。
「熟達じゅくたつの魔法使いではあるが、セブルス、いまとなってはおまえの存在も、たいした意味がない。我々はもう間もなくやり遂とげる……間もなくだ」
「小僧こぞうを探すようお命じください。私めがポッターを連れて参りましょう。わが君、私ならあいつを見つけられます。どうか」
スネイプが大股おおまたで、覗き穴の前を通り過ぎた。ハリーはナギニに目を向けたまま、少し身を引いた。ナギニを囲んでいる守りを貫く呪文じゅもんは、あるのだろうか。しかし、何も思いつかなかった。一度失敗すれば、自分の居場所を知られてしまう……。
ヴォルデモートが立ち上がった。ハリーはいま、その姿を見ることができた。赤い眼め、平たい蛇のような顔。薄暗うすくらがりの中で、蒼白そうはくな顔がぼんやりと光っている。
「問題があるのだ、セブルス」ヴォルデモートが静かに言った。
「わが君」スネイプが問い返した。
ヴォルデモートは、指し揮き者しゃがタクトを上げる繊細せんさいさ、正確さで、ニワトコの杖を上げた。
「セブルス、この杖はなぜ、俺様おれさまの思いどおりにならぬのだ」
沈黙ちんもくの中で、ハリーは、大蛇だいじゃがとぐろを巻いたり解といたりしながら、シューシューと音を出すのを聞いたような気がした。それとも、ヴォルデモートの歯の間から漏もれる息が、空中に漂っているのだろうか
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