「わ――わが君」スネイプが感情のない声で言った。「私めには理解しかねます。わが君は――わが君は、その杖つえできわめて優れた魔法を行っておいでです」
「違う」ヴォルデモートが言った。「俺様おれさまが成しているのは普通の魔法だ。たしかに俺様はきわめて優れているのだが、この杖は……違う。約束された威力いりょくを発揮はっきしておらぬ。この杖も、昔オリバンダーから手に入れた杖も、何ら違いを感じない」
ヴォルデモートの口調は瞑想めいそうしているかのように静かだったが、ハリーの傷痕きずあとはズキズキと疼うずきはじめていた。つのる額ひたいの痛みで、ハリーは、ヴォルデモートの抑制よくせいされた怒りが徐々に高まってきているのを感じ取った。
「何ら違わぬ」ヴォルデモートが繰り返した。
スネイプは無言だった。ハリーにはその顔が見えなかったが、危険を感じたスネイプが、ご主人様を安心させるための適切な言葉を探しているのではないかという気がした。
ヴォルデモートは部屋の中を歩きはじめた。動いたので、その姿がハリーからは一瞬いっしゅん見えなくなった。相変わらず落ち着いた声で話してはいたが、ハリーの痛みと怒りは次第に高まっていた。
「俺様は時間をかけてよく考えたのだ、セブルス……俺様が、なぜおまえを戦いから呼び戻したかわかるか」
そのとき、一瞬、ハリーはスネイプの横顔を見た。その目は、魔法の檻おりの中でとぐろを巻いている大蛇だいじゃを見つめていた。
「いいえ、わが君。しかし、戦いの場に戻ることをお許しいただきたく存じます。どうかポッターめを探すお許しを」
「おまえもルシウスと同じことを言う。二人とも、俺様ほどにはあやつを理解してはおらぬ。ポッターを探す必要などない。あやつのほうから俺様のところに来るだろう。あやつの弱点を俺様は知っている。一つの大きな欠陥けっかんだ。周りでほかのやつらがやられるのを、見てはおられぬやつなのだ。自分のせいでそうなっていることを知りながら、見てはおられぬのだ。どんな代償だいしょうを払ってでも、止めようとするだろう。あやつは来る」