「おそらくおまえは、すでに答えを知っておろう なにしろ、セブルス、おまえは賢かしこい男だ。おまえは、忠実なよき下僕しもべであった。これからせねばならぬことを、残念に思う」
「わが君――」
「ニワトコの杖つえが、俺様おれさまにまともに仕つかえることができぬのは、セブルス、俺様がその真の持ち主ではないからだ。ニワトコの杖は、最後の持ち主を殺した魔法使いに所属する。おまえがアルバス・ダンブルドアを殺した。おまえが生きているかぎり、セブルス、ニワトコの杖は真に俺様のものになることはできぬ」
「わが君」スネイプは抗議こうぎし、杖を上げた。
「これ以外に道はない」ヴォルデモートが言った。「セブルス、俺様はこの杖の主人あるじにならねばならぬ。杖を制するのだ。さすれば、俺様はついにポッターを制する」
ヴォルデモートは、ニワトコの杖で空くうを切った。スネイプには何事も起こらず、一瞬いっしゅん、スネイプは、死刑を猶予ゆうよされたと思ったように見えた。しかし、やがてヴォルデモートの意図がはっきりした。大蛇だいじゃの檻おりが空中で回転し、スネイプは叫さけぶ間もあらばこそ、その中に取り込まれていた。頭も、そして肩も。ヴォルデモートが蛇語へびごで言った。
「殺せ」
恐ろしい悲鳴が聞こえた。わずかに残っていた血の気も失うせ、蒼白そうはくになったスネイプの顔に、暗い目が大きく見開かれていた。大蛇の牙きばにその首を貫かれ、魔法の檻おりを突き放はなすこともできず、スネイプはガクリと床に膝ひざをついた。
「残念なことよ」ヴォルデモートが冷たく言った。
ヴォルデモートは背を向けた。悲しみもなく、後悔もない。屋敷やしきを出て指し揮きを執とるべきときが来た。いまこそ自分の命めいのままに動くはずの杖を持って。ヴォルデモートは蛇を入れた星をちりばめたような檻に杖を向けた。檻はスネイプを離れてゆっくり上昇し、スネイプは首から血を噴ふき出して横に倒れた。ヴォルデモートは振り返りもせず、さっと部屋から出ていった。大蛇は巨大な球体に守られて、そのあとからふわふわと従ついていった。