頭から先に陽ひの光を浴び、ハリーの両足は温あたたかな大地を踏ふんだ。立ち上がると、ほとんど誰もいない遊び場にいた。遠くに見える街まちの家並やなみの上に、巨大な煙突が一本そそり立っている。女の子が二人、それぞれブランコに乗って前後に揺ゆれている。痩やせた男の子が、その背後の潅かん木ぼくの茂みからじっと二人を見ていた。男の子の黒い髪かみは伸び放ほう題だいで、服装はわざとそうしたかと思えるほど、ひどくちぐはぐだった。短すぎるジーンズに大人の男物らしいだぶだぶでみすぼらしい上着、おかしなスモックのようなシャツを着ている。
ハリーは男の子に近づいた。せいぜい九歳か十歳のスネイプだ。顔色が悪く、小さくて筋すじ張ばっている。ブランコをどんどん高く漕こいでいるほうの少女を見つめるスネイプの細長い顔に、憧あこがれがむき出しになっていた。
「リリー、そんなことしちゃダメ」もう一人の少女が、金切かなきり声ごえを上げた。
しかしリリーは、ブランコが弧こを描いたいちばん高いところで手を離して飛び出し、大きな笑い声を上げながら、上空に向かって文字どおり空を飛んだ。そして、遊び場のアスファルトに墜つい落らくしてくしゃくしゃになるどころか、空中ブランコ乗りのように舞い上がって異常に長い間空中にとどまり、不自然なほど軽々と着地した。
「ママが、そんなことしちゃいけないって言ったわ」
ペチュニアは、ズルズル音を立てて、サンダルの踵かかとでブランコにブレーキをかけ、ぴょんと立ち上がって腰に両手を当てた。
「リリー、あなたがそんなことするのは許さないって、ママが言ったわ」
「だって、わたしは大丈夫よ」
リリーは、まだクスクス笑っていた。
「チュニー、これ見て。わたし、こんなことができるのよ」
ペチュニアはちらりと周りを見た。遊び場には二人のほかに誰もいない。二人に隠れて、スネイプがいるだけだった。リリーは、スネイプが潜ひそむ茂みの前に落ちている花を拾い上げた。ペチュニアは、見たい気持と許したくない気持の間で明らかに揺ゆれ動きながらも、リリーに近づいた。リリーは、ペチュニアがよく見えるように近くに来るまで待ってから、手を突き出した。花は、その手のひらの中で、襞ひだの多い奇妙きみょうな牡か蠣きのように、花びらを開いたり閉じたりしていた。