「やめて」ペチュニアが金切かなきり声ごえを上げた。
「何も悪さはしてないわ」そうは言ったが、リリーは手を閉じて、花を放ほうり投げた。
「いいことじゃないわ」
ペチュニアはそう言いながらも、目は飛んでいく花を追い、地面に落ちた花をしばらく見ていた。
「どうやってやるの」ペチュニアの声には、はっきりと羨うらやましさがにじんでいた。
「わかりきったことじゃないか」スネイプはもう我慢がまんできないとばかりに、茂みの陰から飛び出した。
ペチュニアは悲鳴を上げてブランコのほうに駆かけ戻った。しかしリリーは、明らかに驚いてはいたがその場から動かなかった。スネイプは、姿を現したことを後悔している様子だった。リリーを見るスネイプの土つち気け色いろの頬ほおに、鈍にぶい赤みが注さした。
「わかりきったことって」リリーが聞いた。
スネイプは興奮し、落ち着きを失っているように見えた。離れたところで、ブランコの脇わきをうろうろしているペチュニアにちらりと目をやりながら、スネイプは声を落として言った。
「僕はきみが何だか知っている」
「どういうこと」
「きみは……きみは魔女だ」スネイプが囁ささやいた。
リリーは侮辱ぶじょくされたような顔をした。
「そんなこと、他ひ人とに言うのは失礼よ」
リリーはスネイプに背を向け、つんと上を向いて鼻息も荒くペチュニアのほうに歩いていった。
「違うんだ」
スネイプは、いまや真っ赤な顔をしていた。ハリーは、スネイプがどうしてばかばかしいほどだぶだぶの上着を脱がないのだろうと訝いぶかった。その下に着ているスモックを見られたくないのだろうか スネイプは二人の少女を追いかけた。大人のスネイプと同じように、まるで滑こっ稽けいなコウモリのような姿だった。
二人の姉妹は反感という気持で団結し、ブランコの支柱が鬼おにごっこの「安全地帯」の場所ででもあるかのようにつかまって、スネイプを観察していた。
「きみはほんとに、そうなんだ」
スネイプがリリーに言った。
「きみは魔女なんだ。僕はしばらくきみのことを見ていた。でも、何も悪いことじゃない。僕のママも魔女で、僕は魔法使いだ」
ペチュニアは、冷水のような笑いを浴びせた。
「魔法使い」
突然現れた男の子に驚きはしたが、もうそのショックから回復して負けん気が戻ったペチュニアが叫さけんだ。
「私は、あなたが誰だか知ってるわ。スネイプって子でしょう この人たち、川の近くのスピナーズ・エンドに住んでるのよ」
ペチュニアがリリーに言った。ペチュニアの口調から、その住所が芳かんばしくない場所だと考えられていることは明らかだった。
「どうして、私たちのことをスパイしていたの」