場面が消え、いつの間にかハリーの周囲が形を変えていた。こんどは低木の小さな茂みの中にいた。木の幹を通して、太陽に輝く川が見えた。木々の影が、涼すずしい緑の木陰を作っている。子どもが二人、足を組み、向かい合って地面に座っている。スネイプは、今回は上着を脱いでいた。おかしなスモックは、木陰の薄明うすあかりではそれほど変に見えなかった。
「……それで、魔法省は、誰かが学校の外で魔法を使うと罰ばっすることができるんだ。手紙が来る」
「でもわたし、もう学校の外で魔法を使ったわ」
「僕たちは大丈夫だ。まだ杖つえを持っていない。まだ子どもだし、自分ではどうにもできないから、許してくれるんだ。でも十一歳になったら――」
スネイプは重々しくうなずいた。
「そして訓練を受けはじめたら、そのときは注意しなければいけない」
二人ともしばらく沈ちん黙もくした。リリーは小枝を拾って、空中にくるくると円を描いた。小枝から火花が散るところを想像しているのが、ハリーにはわかった。それからリリーは小枝を捨てて男の子に顔を近づけ、こう言った。
「ほんとなのね 冗談じょうだんじゃないのね ペチュニアは、あなたがわたしに嘘うそをついているんだって言うの。ペチュニアは、ホグワーツなんてないって言うの。でも、ほんとなのね」
「僕たちにとっては、本当だ」スネイプが言った。「でもペチュニアにとってじゃない。僕たちには手紙が来る。きみと僕に」
「そうなの」リリーが小声で言った。
「絶対だ」スネイプが言った。
髪かみは不ぞろいに切られ、服装もおかしかったが、自分の運命に対して確信に満ちあふれたスネイプが、手足を伸ばしてリリーの前に座っているさまは、奇妙きみょうに印象的だった。
「それで、本当にふくろうが運んでくるの」リリーが囁ささやくように聞いた。
「普通はね」スネイプが言った。「でも、きみはマグル生まれだから、学校から誰かが来て、きみのご両親に説明しないといけないんだ」
「何か違うの マグル生まれって」
スネイプは躊躇ちゅうちょした。黒い目が緑の木陰で熱を帯び、色白の顔と深い色の赤い髪を眺ながめた。
「いいや」スネイプが言った。「何も違わない」
「よかった」
リリーは、緊張きんちょうが解とけたように言った。ずっと心配していたのは明らかだった。