リリーは、誰よりもうれしそうに微笑ほほえんでいた。肩にかかる長い髪を背中に流してハリーに近づきながら、ハリーそっくりの緑の目で、いくら見ても見み飽あきることがないというように、ハリーの顔を貪むさぼるように眺ながめていた。
「あなたはとても勇敢ゆうかんだったわ」
ハリーは、声が出なかった。リリーの顔を見ているだけで幸せだった。その場にたたずんで、いつまでもその顔を見ていたかった。それだけで満足だと思った。
「おまえはもうほとんどやり遂とげた」ジェームズが言った。「もうすぐだ……父さんたちは鼻が高いよ」
「苦しいの」子どもっぽい質問が、思わず口を衝ついて出ていた。
「死ぬことがか いいや」シリウスが言った。「眠りに落ちるより素早く、簡単だ」
「それに、あいつは素早くすませたいだろうな。あいつは終わらせたいのだ」ルーピンが言った。
「僕、あなたたちに死んでほしくなかった」
ハリーが言った。自分の意思とは関係なく、言葉が口を衝いて出てきた。
「誰にも。許して――」ハリーは、ほかの誰よりもルーピンに向かってそう言った。心から許しを求めた。「――男の子が生まれたばかりなのに……リーマス、ごめんなさい――」
「私も悲しい」ルーピンが言った。「息子を知ることができないのは残念だ……しかし、あの子は、私が死んだ理由を知って、きっとわかってくれるだろう。私は、息子がより幸せに暮らせるような世の中を、作ろうとしたのだとね」
森の中心から吹いてくると思われる冷たい風が、ハリーの額ひたいにかかる髪かみをかき揚あげた。この人たちのほうからハリーに行けとは言わないことを、ハリーは知っていた。決めるのは、ハリーでなければならないのだ。