ベラトリックスは弾はじけるように立ち上がり、激はげしい息遣いきづかいで、ヴォルデモートとハリーを食い入るように見つめた。動くものと言えば、焚き火の炎と、ヴォルデモートの背後に光る檻おりでとぐろを巻いたり解といたりする蛇へびだけだった。
ハリーは、杖が胸に当たるのを感じたが、抜こうとはしなかった。蛇の護まもりはあまりに堅かたく、何とかナギニに杖を向けることができたとしても、それより前に五十人もの呪のろいがハリーを撃うつだろう。ヴォルデモートとハリーは、なおも見つめ合ったままだった。やがてヴォルデモートは小首を傾かしげ、目の前に立つ男の子を品定めしながら唇くちびるのない口をめくり上げて、きわめつきの冷酷な笑いを浮うかべた。
「ハリー・ポッター」
囁ささやくような言い方だった。その声は、パチパチ爆はぜる焚たき火びの音かと思えるほどだった。
「生き残った男の子」
死し喰くい人びとは、誰も動かずに待っていた。すべてが待っていた。ハグリッドはもがき、ベラトリックスは息を荒らげていた。そしてハリーは、なぜかジニーを思い浮かべた。あの燃えるような瞳ひとみ、そしてジニーの唇くちびるのあの感触かんしょく――。
ヴォルデモートは杖つえを上げた。このままやってしまえば何が起こるのかと、知りたくてたまらない子どものように小首を傾げたままだ。ハリーは赤い眼めを見つめ返し、早く、いますぐにと願った。まだ立っていられるうちに、自分を抑制よくせいすることができなくなる前に、恐怖きょうふを見抜かれてしまう前に――。
ハリーはヴォルデモートの口が動くのを見た。緑の閃光せんこうが走った。そして、すべてが消えた。