「ねぇ、ねぇ」
ジェームズが再び顔を出した。トランクもふくろうもカートも、もうどこかに厄やっ介かい払ばらいしてきたらしく、ニュースを伝えたくてむずむずしている。
「テディがあっちのほうにいるよ」
ジェームズは振り返って、もくもく上がる蒸気の向こうを指した。
「いま、そこでテディを見たんだ それで、何してたと思う――ビクトワールにキスしてた」
たいして反応がないので、ジェームズは明らかにがっかりした顔で、大人たちを見上げた。
「あのテディだよ テディ・ルーピン あのビクトワールにキスしてたんだよ 僕たちの従姉いとこの だから僕、テディに何してるのって聞いたんだ――」
「――二人の邪魔じゃまをしたの」ジニーが言った。「あなた、本当にロンにそっくり――」
「――そしたらテディは、ビクトワールを見送りに来たって言った そして僕、あっちに行けって言われた。テディはビクトワールにキスしてたんだよ」
ジェームズは、自分の言ったことが通じなかったのではないかと気にしているように、繰り返した。
「ああ、あの二人が結婚したら素敵すてきなのに」リリーがうっとりと囁ささやいた。「そしたらテディは、本当に私たちの家族になるわ」
「テディは、いまだって週に四回ぐらいは、僕たちのところに夕食を食べにくる」ハリーが言った。「いっそ、僕たちと一緒いっしょに住むように勧すすめたらどうかな」
「いいぞ」ジェームズが熱狂的に言った。「僕、アルと一緒の部屋でかまわないよ――テディが僕の部屋を使えばいい」
「だめだ」ハリーがきっぱり言った。「おまえとアルが一緒の部屋になるのは、家を壊こわしてしまいたいときだけだ」
ハリーは、かつてフェービアン・プルウェットのものだった使い込まれた腕うで時ど計けいを見た。
「まもなく十一時だ。汽車に乗ったほうがいい」
「ネビルに、私たちからよろしくって伝えるのを忘れないでね」ジェームズを抱きしめながら、ジニーが言った。
「ママ 先生に『よろしく』なんて言えないよ」
「だって、あなたはネビルと友達じゃないの――」
ジェームズは、やれやれという顔をした。
「学校の外ならね。だけど学校ではロングボトム教授きょうじゅなんだよ。『薬やく草そう学がく』の教室に入っていって、先生に『よろしく』なんて言えないよ……」
常識のない母親は困るとばかりに頭を振りながら、ジェームズは気持のはけ口にアルバス目がけて蹴けりを入れた。