曲はほかでもない、ブッシュにとっては一代の名演とうたわれた、そうしてドイツのオペラの演奏の歴史にとって不朽の一ページを画することになったといわれる公演をする機縁となったヴェルディ作の『仮面舞踊会』である。
レコードのケースに入っているパンフレットには、ブッシュの未亡人の回想の言葉ものっているが、その中にこうある。
「かつてベルリンの演奏の時には、パタキの演じたルネが大評判をとったように、このケルンの時でも、ルネの役に抜群の歌手がいた。それはまだとても若くて、口数が少なく、並外れて大きくとても変わった顔つきをした人だった。この若者は、フリッツ・ブッシュの言葉によると『私の一生を通じて、この畑でかつてこれほどの大きな才能の持ち主に会ったことがない』ような歌手で、名前はディートリヒ・フィッシャー〓ディースカウという……」
そのほかの配役はリチャード伯がローレンツ・フェーエンベルガー、アメリアがヴァルブルガ・ヴェグナー、ジプシーの女占いがマルタ・メードル以下、ケルン放送局のオーケストラと合唱団、その他の演奏である。ドイツ語で歌われる。
私は、これから、そのレコードに針をおろすところである。