アレルギーには、アレルゲンといって、その症状を引き起すモトがある。これは人によって違い、衣類だけを例にとっても、絹がダメな人も木綿の人もナイロンの人もいる。
なにがアレルゲンか調べる方法があって、その物質から抽出したエキスを、皮内に注射する。大きく赤く脹れた場合は、おおむねそれが危険なものだとおもえばよい。
こういうテストが手軽に受けられるようになったのは、この数年のことである。
それまでは、一つ一つからだで思い知ってゆかなくてはならなかった。
戦後五、六年経って、いくらか世の中が落着いてきたとき、はじめての酒場に一人で入ってみることがあった。その店を見まわして、勘定がいかにも高そうな気配を感じたときには、
「ジンのストレートをください」
と註文することにしていた。これだと、法外な値段を請求するわけにはいかない。それはよかったのだが、翌朝になると、皮膚が赤くただれている。何度も繰返しているうちに、ようやくジンが私のアレルゲンの一つだと分かった。カクテルには、ジンをベースにしたものが多いので、いまでもパーティなどに行ったときにはこわくてカクテルのグラスに手が出せない。
今年の秋、マージャンをやっていて弁当を註文すると、オカズに細切りの肉・タケノコ・ピーマンが絡まり合っているのが入っていた。
タケノコは私のアレルゲンの一つで、エキスの皮内テストをしたとき、大きく脹れた。
しかし、そのオカズでは甚だ複雑にからまり合っているので、そこから肉とピーマンとを引き出してくるのは不可能事である。
「いまの季節なら、タケノコはカンヅメのものだろうし、今年はだいぶ元気だから、大丈夫だろう」
と、そのまま食べてしまった。
やはりダメで、ゲームが終ったころに、頬っぺたにオデキが一つできた。アレルギー性のオデキというのも存在しているらしく、この場合はすこしも痛くないが、治りにくい。
数日後、病院へ行って報告すると、
「タケノコは、まだ半年はムリですな」
と、先生にいわれた。
しかし、ジンとかタケノコとかならば、それを口に入れなければよい。衣類にしても、私はキヌが危いのだが、それを身につけなければよい。
空気のエキスもできていて、この皮内テストをしてみると、大きく赤く脹れた。
「あなたには、空気はいけませんな」
「はあ」
「当分、吸わないでいてください」
と先生が言った、というのはもちろん冗談だが、空気のエキスのあるのは本当である。正確にいえば、空気中には五種類のカビが浮游《ふゆう》しているのだそうで、そのカビがアレルゲンになる場合がある。
私の場合は、そのうちの三種類がいけない。
こういう場合には、「減感作」といって、少量のエキスを皮下注射することを繰返して、過敏 性を取ってゆく。しだいにエキスの量を増やすのだが、はじめのころは、一日置きくらいに通院しなくてはならない。
しかし、天候気候の変化が原因のものとなると、これはもう方法がない。
転地するにしても、そこが体質に合うかどうかは、行ってみないと分からない。