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今日からマ王4-10

时间: 2018-04-29    进入日语论坛
核心提示:     10 結果として、おれの捻挫《ねんざ》はどうなったのか。 あれから三日間をヒルドヤードの|歓楽郷《かんらくきょう
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      10
 結果として、おれの捻挫《ねんざ》はどうなったのか。
 あれから三日間をヒルドヤードの|歓楽郷《かんらくきょう》で過ごし、朝から晩まで|暇《ひま》さえあれば湯に浸《つ》かった。最後にはあの際《きわ》どいビキニパンツにも慣れて、トランクスタイプの下着に違和感《いわかん》を覚えるという、危険な状態になってしまった。こんなこと恥《は》ずかしくて他人には言えない。
 グレタとの別れでは人目もかまわず|号泣《ごうきゅう》してしまったが、誰も笑ったりはしなかった。とりあえず一ヵ月後には|一旦《いったん》帰省させますと、ヒスクライフは約束してくれた。考えてみるとあの子がおれの前に現れてから、十日あまりしか経《た》っていない。親子の情って時間じゃないんだなと、話題を振《ふ》ろうと横を向いたら、ヴォルフラムは|壮絶《そうぜつ》な貰《もら》い泣《な》きをしていた。
 アニシナはヒルドヤードの歓楽郷に残った。編み物と発明品の一大ショッピングパークを展開するらしい。男と違《ちが》って|繊細《せんさい》な指を持った編み娘達が、怪我《けが》が治れば百人近くいる。夜間は読み書きや仕事を教え、昼間は店で働かせれば、教育もできるし給料も払《はら》える。イズラとニナもこの施設《しせつ》に就職するという。
「不運な女性達を救うには、教育より他《ほか》にありません」ここまでは判《わか》る。とても偉《えら》い。だが、「そして強く賢《かしこ》くなった女達が、愚《おろ》かな男どもを支配して、|素晴《すば》らしい世界を築くのです!」
 これは少々差別的な発言ではないか。
「陛下からも、わたくしへの餞《はなむけ》のお言葉を賜《たまわ》りたいですね!」
「……が、頑張《がんば》ってくだサイ」
 逆らうだけの勇気はなかった。
 ショッピングパークの一角にはヒノモコウ屋も入り、今は亡《な》きゾラシアの|宮廷《きゅうてい》料理は、細々とながら継承《けいしょう》されることになった。熱々で一本|啜《すす》り込みの、独特の食べ方も伝授してほしい。
 口添《くちぞ》えの礼にということなのか、マッチョで|鉢巻《はちま》きの親爺《おやじ》は家宝の器《うつわ》をくれた。|中華《ちゅうか》模様で底面に|龍《りゅう》が絡《から》み合っている。鑑定不可の価値とまで言われたが、見たところ普通《ふつう》の丼だ。
「スープに未来が映るんだってさ」
「まさか。過去とか前世ならともかく、起こってもいない先のことが、どうやって?」
「だよなあ。おれもそう思う。背後《はいご》霊《れい》ならともかくなー?」
 帰りの船旅は概《おおむ》ね良好で、海賊《かいぞく》にも|巨大《きょだい》イカにも悩《なや》まされなかった。ただ、往路と同じ若手船員と乗り合わせてしまい、最初のうちは気まずい思いをした。しかも行きに連れていた隠《かく》し子《ご》がいなくなり、代わりに寝《ね》たきりの男を積み込んできたのだ。訝《いぶか》しがられても無理はない。
 ゲーゲンヒューバーは一命をとりとめたが、単に「生きている」という状態だ。肺も心臓も機能してはいるが、意識の戻《もど》る気配はない。一度だけ何か|喋《しゃべ》った気がしたが、それはおれの幻聴《げんちょう》だろう。なにしろ聞こえた台詞《せりふ》というのが、
「かたじけない」[#本書では異例だが、読点で改行され一行独立している。次の行も一字下げで始まっている。]
 の一言だったのだ。サムライかよ!? ていうかやっぱ空耳でしょう。もっとこう、ござるとかナリと付いていれば、受《う》け狙《ねら》いかもしれないと思えるのだが。
 ニコラはどんなに悲しむだろうか。けれどそれを迂闊《うかつ》に口に出せば、コンラッドが辛《つら》い思いをする。だからおれは言われたとおりに、ヒューブの船室にはなるべく近付かなかった。シルドクラウトで雇《やと》った中年の看護婦が、つきっきりで世話をしてくれた。
 自分の城に戻ったのは、昼を過ぎて気温の上がった頃《ころ》だった。
 短文の置き手紙一枚を残したきりで、職務を放棄《ほうき》し脱走《だっそう》したのだから、ギュンターはさぞやお冠《かんむり》だろうと、同情を引きそうな態度で居間に入る。
「あのー、ギュンター、いやギュンターさん?」
「陛下!」
 可能な限り両手を開き、ただでさえでかい身長で背伸《せの》びまでして、おれに向かって|襲《おそ》いかかる……わけではなかった。腕《うで》の下がヒラヒラした変な服で、巻き込むように抱《だ》き付いてきた。
「ああ陛下、よくぞお戻りくださいました。このフォンクライスト・ギュンター、再びお会いできる日を心待ちにしておりました」
「|怒《おこ》ってないの? しかも泣いてねーの?」
 涙《なみだ》も鼻水も流していない。その上すぐにおれを解放し、一歩|離《はな》れてにこやかに話しかける。
「怒るなど、なにゆえそのような俗世《ぞくせ》にまみれた感情を。陛下、私は悟《さと》ったのです。愛とはすべてを受け入れること、愛するお方の望むとおりに、自分自身から変わること。そして愛に付随《ふずい》する厳しい試練は、何もかも大いなる存在の思《おぼ》し召《め》し」
「は、はあ」
「ですから陛下にお会いできない日々が続いたのも、眞王《しんおう》陛下が私の心を試《ため》すべく、お与《あた》えになった試練なのです」
 指を組み祈《いの》りの形を作って、天に向かってうっとりする。気のせいか彼の背中から、清々《すがすが》しい光が広がっているような。心洗われるヒーリングミュージックが、微《かす》かに聞こえてくるような。留守中に何かダダダダーンな運命的な体験をして、価値観が百八十度変わったのか。
「……何をしているんだ、ダカスコス」
「あっ」
 コンラッドがギュンターの後ろの巨大な箱を持ち上げた。中では全身ツルツルの中年兵士が、照射器とオルゴールを動かしていた。
「ああっダカスコス! だからあれほど目立たぬように動けと言ったではありませんか!? これでは私の苛酷《かこく》な体験修行が水《みず》の泡《あわ》です! 陛下に何と申し開きすればいいやら!」
「……よく判んないけど、全然悟ってねーじゃん……う、な、なんか視線が」
 痛いほどの視線を感じて振り向くと、解《ほつ》れ髪《がみ》も恨《うら》めしくゲッソリとやつれたグウェンダルがいた。目の下の隈《くま》が何かを物語っている。
「……キサマら……仕事を……しろっ」
 右手の指に、ペンダコ発見。
 
 
 足の具合をみようということで、おれたちは久々にロードワークに出た。もっともヒルドヤードの事件でも、散々走ってはいたのだが。
 いつものコースを少し逸《そ》れて、緩《ゆる》やかなスロープを登り切る。小高い丘《おか》のすぐ下には、冬ながら緑の絨毯《じゅうたん》が広がっていた。
 息さえ乱れていないコンラッドが、斜面《しゃめん》の終わりを指差した。
「見えますか」
 見えないわけがない。とても大きく広く、近かったのだ。
 五ヵ所だけ切り取られた緑の下から、焦《こ》げ茶《ちゃ》の土が覗《のぞ》いている。等間隔《とうかんかく》で立てられた木柱には、目の粗《あら》いネットが張られている。何人かの屈強《くっきょう》な青年達が、巨大な雛壇《ひなだん》を作っていた。十段くらいの観客席だ。
 扇形《おおぎがた》の両サイドのライン|脇《わき》には、それぞれのチームのベンチもちゃんとある。
「……すげえ」
「ボールパークのつもりだけど、俺の|記憶《きおく》の中のものだから、形とかちょっと怪《あや》しいような」
「ぜんぜん。全然そんなことないよ。いいよ、両翼《りょうよく》しっかり百メートルある」
 おれたちの姿に気づいたのか、青年の一人が背筋を正して敬礼した。残りの二人は|帽子《ぼうし》を取って高く上げてみせ、俯《うつむ》いて作業中の他の者に声を掛《か》ける。
 無意識に足は進んでいた。それどころか駆《か》け出そうとして失敗して、冬の固い草を全身にくっつけながら、緩い斜面を転げ落ちた。
「陛下、気をつけてくださいって」
「平気だ」
 今ならどんなことがあっても平気だ。間怠《まだる》っこしくもつれる脚《あし》を叱《しか》りつけ、スタジアムのゲートまで辿《たど》り着いた。見慣れたドームや人工芝《じんこうしば》でもなく、ライトスタンドやバックスクリーンもどこにもない。あるのは洋画でリトルリーガーが走り回る、総天然|芝《しば》のフィールドと、家族総出で狂喜《きょうき》乱舞《らんぶ》する観客席。
「……どうしよう」
 こんな|凄《すご》い球場を造られたら、おれはどうすればいいんだろう。
 労働中の若者達が駆け寄ってきた。皆《みな》一様に真顔になっている。
「陛下、申し訳ありません、こんな見苦しい私服姿で。その、自分は非番だったもので」
「非番って、仕事でもないのに何してるんだ?」
「はあ、ぼーるぱーくとやらを造っておりまして……」
 やっとウェラー|卿《きょう》が追いついて、兵達に作業を続けるようにと解散させた。
「なんで休日なのにわざわざ……」
「陛下を喜ばせたいからですよ」
 実物を前にして感動してしまい、おれの理解力はかなり鈍《にぶ》っている。茶と緑だけで構成された、自然で美しい最初のひとつ。
「でもなんで、こんな凄いもの」
「誕生日でしょう、十六の。あなたがご自分で十六になったと宣言するまでは、秘密にしておく予定でしたが……ここのところ色々あったから、元気だしてもらおうと思って」
 ライトフィールド、センターフィールド、レフトフィールド、サードベース、セカンドベース、ファーストベース。高さが足りないマウンドと、まだ置かれていないホームベース。
 音まで聞こえてくるようだった。瞳《ひとみ》の奥に夏空の青が蘇《よみがえ》る。
「この国を好きになってもらいたくて、みんな|一生《いっしょう》懸命《けんめい》なんです」
「なんで!? 好きだよ、もうとっくに。嫌《きら》いだなんて言ってないだろ!?」
 コンラッドは胸に刺《さ》さるような笑《え》みを浮《う》かべ、バッターボックスに近付いた。
「そうでしたね」
 おれはゆっくりとホームベースの後ろに立ち、フィールドの全域を見渡《みわた》した。ここからは何もかもが把握《はあく》できる。投手の心境、野手のシフト、走者のスタート。肩《かた》が触《ふ》れるほど傍《そば》にいる、打者の頭の中までも。
 ここがおれのポジション。ここがおれの場所。
 そっと地面に|膝《ひざ》をつき、掌《てのひら》をつき、肘《ひじ》をついた。そのまま俯《うつぶ》せに寝転《ねころ》がって、片頬《かたほお》と耳を土に押しつけた。初めのうちは冷たかったが、暫《しばら》くそのままでいるうちに地熱がじわりと伝わってきた。この国を照らす太陽が、上からも地下からも放熱している。
「なにしてるんですか」
 笑いを|含《ふく》んだ陽気な声で、ウェラー卿はおれの左耳を摘《つま》む。
「泥《どろ》だらけになって」
「……なあ、つまんないこと言っていい?」
「どうぞ」
「おれさあ、いいかなーと思うんだ」
 こんな無責任なことを言われたら、|魔族《まぞく》の皆はきっと不愉快《ふゆかい》だろう。でも四ヵ月間毎晩考えて、出せた答えはこの程度だ。これ以上はおれには荷が重すぎて、言葉にしても|嘘《うそ》になる。
「……おれさ、いいかなと思ったんだよ。いつまでもどっちかがビジターじゃいけない。だったら|本拠地《ほんきょち》が二つあったって、札幌《さっぽろ》ドームと西武《せいぶ》ドーム、どっちも故郷にしたっていいじゃないかって。言ってること……判《わか》んねーよな多分」
「それなりには」
「うん、だから……もしかしたらもう帰れないかもしれないけど」
 だからといって現代日本の家族や友人を、|諦《あきら》める気にはとてもなれない。この世界でこの国の王なのだから、過去の自分と決別して、魔族のことだけを考えるべきだ。けれど実際にはそんな人格者ではなく、地球も家庭も友人も捨てられない。ご覧のとおり野球も捨てられない。
「だっておれは、望まれてこの国に来たんだろ?」
「そうです」
「だったら……」
 二つの世界に居場所がある。
 こんな幸せな人生はないよ。
 
 
 温泉効果は意外なところにも顕《あらわ》れた。
 血盟城に帰ってきたおれは、あの苛酷《かこく》な温泉|尽《づ》くしの三日間が忘れられず、ことあるごとに湯船に浸《つ》かるという、とんだ風呂《ふろ》好きになってしまったのだ。大浴場が掃除《そうじ》中の昼などは、寝室《しんしつ》の隣《となり》のバスルームでも|我慢《がまん》する。
 広い浴槽《よくそう》に一人きりなのも気が引けるので、タ方のバスタイムにはヴォルフラムも付き合わせた。尻軽《しりがる》だの婚約者《こんやくしゃ》だのは抜《ぬ》きにして、でかい風呂で裸《はだか》の付き合いなんかしてみると、男同士の友情も育《はぐく》める気がしてきた。ただ問題は、野郎《やろう》同士の友情が深まるにつれて、相手の元気がなくなっていく点だ。
 何故だフォンビーレフェルト卿ヴォルフラム、お前は友情では不服なのか?
 今夜も二回ほど|金縛《かなしば》りになった後に、どうにも目が冴《さ》えて|眠《ねむ》れなくなってしまった。
「あー|駄目《だめ》だ。ひとっ風呂浴びねーと寝《ね》られねえや。ヴォルフ、おれ大浴場行って来るけど」
「なんらお前、いま何時らと思ってるんら? 傍迷惑《はためいわく》らろもいい加減にひろ」
「どうでもいいけど、お前、顔が田中《たなか》邦衛《くにえ》だぞ」
 自分がおれのベッドに住んじゃってるのを棚《たな》に上げて、言いたい放題の失礼|三昧《ざんまい》。
 仕方なく一人で部屋を出て、深夜の廊下《ろうか》を忍《しの》び足《あし》で歩いた。所々に歩哨《ほしょう》がいるものの、静まり返った城内は、この世の者ならぬ影《かげ》がありそうで落ち着かない。基本的に魔族の国なのだから魔物や|怪物《かいぶつ》は超常《ちょうじょう》現象に入らないのだが、幽霊《ゆうれい》となるとそうはいかない。
 やっと脱衣所《だついじょ》に入った時にも、微《かす》かな水音に飛び上がった。
 誰《だれ》もいないはずの大浴場から、湯の跳《は》ねる軽い音が聞こえてくる。
「このパシャパシャは明らかに大人ではない。ということはツェリ様の可能性は薄《うす》いな。どっちかというともっとこう、体重の軽い感じの……」
 子供? 子供の……幽霊!?
 冗談《じょうだん》じゃないぞ、子供の幽霊。あるいは民家につく座敷童《ざしきわらし》。あるいは髪《かみ》の伸《の》びる日本人形!? それとも首の抜けるお雛様《ひなさま》ぁ!? 順を追うに連れて怖《こわ》さが薄まるようだ。
 だがもしも本当に子供が|溺《おぼ》れているのなら、一刻も早く助けないと手遅《ておく》れになる。おれは意を決して引き戸を開け、ゴージャスな風呂場《ふろば》に駆け込んだ。壁《かべ》にいくつか灯《とも》された炎《ほのお》だけではもがく子供は見あたらない。
「……えーと……あっ、わんこ!?」
 常識はずれなサイズの浴槽の中央に、白っぽい小動物の姿がある。犬か、もしかしたら猫《ねこ》かもしれないが、|恐《おそ》らく城内に迷い込み、うっかり落ちてしまったのだろう。待ってろわんこ、今すぐ助けてやるからなと、おれはパジャマ代わりの短パンTシャツのままで、勇敢《ゆうかん》にも|巨大《きょだい》浴槽に飛び込んだ。目標、十ニメートル地点。
 基本に忠実な犬掻《いぬか》きで小動物まで泳ぎつき、ようやく指先が毛に届く。動きがないということは、まさかすでに力尽《ちからつ》きてしまったのか? ああっワンちゃん!
「ぐにゃ……ってこれ……あみぐるみィ!?」
 気付いたときには遅《おそ》かった。
 何かとても懐《なつ》かしい力で、捻挫《ねんざ》完治済みの右足首を掴《つか》まれる。嘘ここって足つかなかったっっけと慌《あわ》てる間もなく、渦《うず》の中央に吸い込まれた。
 ひょっとしてこれは、例によって例のごとく、久々に通い慣れたあれなのか!? 東京ディズニーシーができたお陰《かげ》で利用しやすくなった、勝手知ったるアトラクションなのか!? おれの消えた後には白いあみぐるみだけが、水を含んで沈《しず》みかけて、たゆたっているんだろうなあ。それはまた恐ろしくシュールな光景だ、などとイメージしている余裕《よゆう》はない。
 あとはもう、お久しぶりな、スターツアーズ。
 
 
 濡《ぬ》れた皮膚《ひふ》を一気に乾《かわ》かして、産毛《うぶげ》も焼けるような強い紫外線《しがいせん》。
 熱い空気を吸い込むのが苦しくて、慣れるまでの十数秒は無酸素だった。やっと喉《のど》と鼻が気温に慣れて、大急ぎで呼吸を再開する。
「……ぶや……ぶやっ!」
 ぶやって何? 頬を何度も叩《たた》かれて、肩を乱暴に揺《ゆ》さぶられている。
「渋谷ッ!」
「……うー、ヴォルフ……いい加減にー……」
「よかった! 生きてる、生きてますよーっ!」
 途端《とたん》に満場の拍手《はくしゅ》。ぎょっとしてしっかりと両眼を開けると、空の青と太陽の白金が瞳孔《どうこう》を|攻撃《こうげき》した。この深く高いスカイブルーは、真夏の昼だけの特色だ。覗《のぞ》き込んでいる三人の顔のうち、一人だけには心当たりがある。もう何ヵ月も会っていなかったのに、どうして村田がいるのだろう。
「渋谷、自分が誰だか判る!?」
「……渋谷有利」
「そう、原宿不利! じゃあ僕のことは? さっきみたいに変な名前呼ぶなよ」
「えーとー……村田健」
 またまた満場の拍手喝采《はくしゅかっさい》。おまけに冷やかしの口笛まで聞こえてくる。
 どうにか首だけ横に向けると、おれはシーワールドのステージ上に、マグロみたいに転がされていた。夏休み|満喫《まんきつ》中の親子連れが、我が事のごとく一喜|一憂《いちゆう》している。この大観衆の眼前で、おれはスタツアったりしてたのか!?
「……今夜あなたは目撃者《もくげきしゃ》、って感じ?」
「ああーそれにしてもよかったよ渋谷ー。どんどん水中に沈んじゃってさ、一時は海側の壁まで流されたらしくて、影も形もきれいさっぱりなくなるしさー」
 村田が眼鏡《めがね》越《ご》しに泣きそうな勢いで、おれの首に抱《だ》き付いた。
「僕がデートに誘《さそ》ったばかりに、最悪の結果になったらって、本気で心配しちゃったよッ」
「誤解されそうなこと言うのはやめてくれ」
 つまり、おれはまた帰ってきたんだ。元の世界に帰還《きかん》したわけだ。違《ちが》うな、もう「元の」世界でも「帰還」でもない。
 渋谷有利は今、現代日本にいる。そしてまたいずれ眞魔国に行くかもしれない。
 ウェットスーツのおねーさんが、服のベルトを緩《ゆる》めて、身体《からだ》が楽になるようにしてくれた。
「いやーっ何これ!?」
 しまった! 本日もおれは魔族の皆様《みなさま》御《ご》用達《ようたし》、黒いシルクの紐《ひも》パンツだ!
「ああすいません、それこいつの趣味《しゅみ》なんですよ。別に害はないですから」
「やめろ村田、公衆の面前で恥《は》ずかしい説明入れるんじゃねえっ! おねーさんもおねーさんだ、この程度の下着で驚《おどろ》くな、いや驚かないでくださいーっ」
 だがもう、彼女達はおれに変態のレッテルを貼《は》っていた。じりじりと後ずさって離《はな》れてゆく。
「まあいいじゃないの、人間の価値は下着で決まるもんじゃないし」
「村田、フォローになってなーい!」
 こういうときに助けてくれる存在が、あっちだったら何人も居てくれるのに。ああもう、早くも恋《こい》しくなってきた。
 これからずっと、日本にいる間は。
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