日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 喬林知 » 正文

今日からマ王9-3

时间: 2018-04-30    进入日语论坛
核心提示:     3 押しても引いても鉄格子はビクともしなかった。 ここからではとても届かないだろうが、それでも構わず村田は友人
(单词翻译:双击或拖选)
      3
 
 押しても引いても鉄格子はビクともしなかった。
 ここからではとても届かないだろうが、それでも構わず村田は友人の名を呼んだ。
「渋谷ッ! 駄目だ、危険すぎる、早く気づけーっ!」
「何だ、何が駄目なんだ?」
 フォンビーレフェルト|卿《きょう》は村田よりかなり冷静で、特に取り乱してはいないようだ。ユーリの爆裂《ばくれつ》魔術《まじゅつ》に何度も遭遇《そうぐう》しているので、多少は免疫《めんえき》ができているのだろう。
「いつもの上様形態だろう。確かに強大で……傍迷惑《はためいわく》な魔術だが、しばらく物陰《ものかげ》でじっとしていれば、そのうち自然と正気に戻る。倒れた後の疲労困憊《ひろうこんぱい》ぶりは不安だが、その|症状《しょうじょう》ともこれまでどうにか折り合いをつけてきている。言ってみれば小規模な台風みたいなものだ。ぼくらが大騒《おおさわ》ぎすることでもないだろうに」
「そうじゃない、これまでとは違うんだ」
 ヴォルフラムは母親似の顔を曇《くも》らせ、|舞台《ぶたい》に立つユーリと村田を|交互《こうご》に見比べた。
「どこか違うか?」
「とにかく違うんだ、魔力の質や条件が異なるんだよ……まず、彼はもう|随分《ずいぶん》長いこと地球に戻っていない。これまでもそういうことはあっただろうが、戻らないまま何度も魔力を使い続けてはいないはずだ。それから、きみも見たろう? 船で。まるで渋谷らしくない[#「渋谷らしくない」に傍点]ことを言ってたじゃないか……僕はあれが不安なんだ……何か止めようのないことが、渋谷の中で起こってなければいいんだが……それに」
「猊下《げいか》、壊《こわ》しますか?」
 村田の|焦燥《しょうそう》を見て取って、ヨザックが格子を曲げにかかる。常人の力では広がらないと知ると、斧《おの》で金属を抉《えぐ》り始める。
「……それに僕がいる……最も危険だ」
「なに?」
「僕は彼の力を増幅《ぞうふく》させる。倍にも、下手をすれば数倍にも。|恐《おそ》らく魔力の質も変えるだろう。より|攻撃《こうげき》的に、破壊《はかい》的になる、かもしれない。破壊するために作られた関係だからね。熟練の術者なら自力でコントロールできるだろうが、王となって日の浅い、それどころか魔力に目覚めて間がない渋谷には、|制御《せいぎょ》するのは難しい」
 ヴォルフラムは一瞬、なんとも|不愉快《ふゆかい》そうな顔をした。だがすぐに王の知己《ちき》としての自信を取り戻し、畏《おそ》れ多くも双黒《そうこく》の|大賢者《だいけんじゃ》に、新参者を見るような視線を向けた。
「近くに行けば制御できるのか」
「きみが? だってフォンビーレフェルト卿、腰《こし》は」
「腰はどうでもいい! ユーリの近くに行けば、あいつの暴走を制御する助けになるのか?」
「確かではないけど、まあ多少は」
「来い!」
 入り口の|扉《とびら》を|蹴破《けやぶ》る。|両脇《りょうわき》に立つ兵士が不意をつかれているうちに、稍《さや》に収めたままの武具で|一撃《いちげき》を食《く》らわす。
「どこかに通用口があるはずだ。グリエの仕事を待つより早い」
「傷つくこと仰《おっしゃ》いますねェ、|坊《ぼっ》ちゃん」
 腰がいかれてモテなくなっても知りませんよ、と軽口を叩《たた》きつつ、ヨザックも後に従った。
 
 観客席を埋《う》め尽《つ》くす男達は、全員|揃《そろ》って上を向いていた。中にはだらしなく口を開いている者もいる。戦場に行ったことのない人間は、|魔術《まじゅつ》など目にする機会はないのだ。
 黒い空に雪で描《えが》かれる模様は、まるで生きているように滑《なめ》らかに動き、主《あるじ》の思惑《おもわく》どおりに姿を変えた。まず鳥、続いて犬、ネズ……いや、赤リス。
 ちょっとした一人雪祭りだ。
 バケツらしき形状をとった雪の塊《かたまり》は、観衆が「アーダルベルト、後ろ後ろ」と教える間もなく急降下し、円形|舞台《ぶたい》で|戦闘《せんとう》中の男に|襲《おそ》いかかった。
「ごぐ」
 後頭部を強《したた》かに打つ。
 がっちりホールドしていた腕《うで》が緩《ゆる》む。すかさずユーリは身を沈《しず》め、筋肉地獄から逃《のが》れて濡《ぬ》れた地面を転がった。
「……おい何だよ……通常戦闘で勝負じゃなかったのかよ。芸術|音痴《おんち》な魔術もありだってんなら、最初から言っといてくれねえと……あーあ、頭の形が変わっちまうだろ」
 アーダルベルトは瘤《こぶ》を確認《かくにん》するよう触《さわ》ってみている。
 ユーリも自分の喉《のど》に手を持っていくと、|汗《あせ》でも水でもないもので指が濡れた。血だ。無言のまま|掌《てのひら》を見詰《みつ》めるが、やがてそれを雪に|擦《こす》りつけた。
 じわりと白が朱《しゅ》に染まる。
 おもむろに顔を上げたときには、|瞳《ひとみ》の光は常とは異なっていた。
 斜《はす》に構え、腕組みをした立ち姿で、ひとを見下すよう僅《わず》かに顎《あご》を上げている。爛々《らんらん》と黒く輝《かがや》く眼《め》は、ただ一点、アーダルベルトに向けられていた。
「……己の出自に従わぬばかりか、あの幼き日、|純粋《じゅんすい》なる精神を決意に震《ふる》わせ、成人の|儀《ぎ》に|誓《ちか》った魔族への忠誠まで捨てるとは……」
 低音で響《ひび》きのいい声と、まわりくどく、不必要に難解な言葉《ことば》遣《づか》い。中途半端《ちゅうとはんぱ》な文語体で、時代劇|枠《わく》でしか聞けない役者口調。
 |間違《まちが》いない、久々のスーパー魔王モードだ。
「身勝手な恨《うら》みつらみを並べて|詭弁《きべん》を弄《ろう》し、故郷に背を向けての放浪《ほうろう》暮らし。それだけならまだしも、逆恨みとしか思えぬ愚《おろ》かな理由で、故国の騒擾《そうじょう》を望むとは! どこまで愚かで貧困な|魂《たましい》か。情けなさに余も鼻水を禁じ得ぬ」
 目より先に鼻から水が漏《も》れるタイプだ。
「しかぁもォ」
 宙に浮《う》かぶ|巨大《きょだい》なスモウ・レスラーの雪像が、台詞《せりふ》に合わせて片腕を振《ふ》り回した。突《つ》きだした五本の指を広げ、ストッブ・ザ・口応《くちごた》えの決めポーズ。生み出されたみぞれ混じりの寒風は、|容赦《ようしゃ》なく観客の全身を打つ。
 アーダルベルトはちょうど、こんな説教聞き飽《あ》きたしもう|攻撃《こうげき》しちゃっていいかなと思ったところを止められた。いいタイミングだ。
「……自らの権利ばかりを主張し、他《ほか》の者へ|譲《ゆず》ることを知らぬ……鳴呼《ああ》、古き良き慣習の、譲り合いの精神、お裾分《すそわ》けの心は何処《いずこ》へか」
 ものすごい悲劇に|見舞《みま》われたかのごとく、額に手を当て、天を|仰《あお》ぎみる。
 それに合わせて夜空で形を成す雪像が、ああんというように身をよじった。不気味だ。
「一つの勝利で満足せず、次の戦士の試合まで|奪《うば》おうとは何事か。フォングランツ、機会均等政策の敵め! おぬしのような不埒《ふらち》な男は、この言葉をこそ|弁《わきま》えるぺきであろう。いいか、そのでかい鼻の穴かっぽじってよーく聞くがよい。肝《きも》に銘《めい》じよ! 謙譲《けんじょう》の美徳!」
 会場中の何人かが、え? と小首を傾《かし》げた。それは無理だろう、しかも不衛生だろう。しかし大半の民衆は、何やらもっともらしい単語の羅列《られつ》に感心している。集団|催眠《さいみん》気味だ。
「最早《もはや》ぬしなど我等の|同胞《どうほう》にあらず。先代魔王もこう言っておる『戻《もど》ろうったって許さなくってよん』とな!」
 そこだけ口まねで言われても。
「なあ、へーカ」
 アーダルベルトは太刀魚《たちうお》状の剣《けん》の腹で肩《かた》を叩き、音を立てて首の筋をほぐした。
「その|眠気《ねむけ》を|誘《さそ》う説教、いつごろ終わる?」
 出番なく地上で主を見守るだけだったコンラッドは元より、ユーリの身分や立場を把握《はあく》できていないはずの|審判《しんぱん》や観客までもが、男の剛胆《ごうたん》さに|呆気《あっけ》にとられた。スーパー魔王を前にしての傍若無人《ぼうじゃくぶじん》っぷり。それこそ鼻でもほじ……掃除《そうじ》し始めそうだ。
 |握《にぎ》り締《し》めたユーリの|拳《こぶし》が、怒《いか》りのせいか微《かす》かに震えた。
「……むう、マッスルにつける薬なし……やはり|脳《のう》味噌《みそ》まで筋肉に侵蝕《しんしょく》されているか」
「そう言うが、ヘーカ。筋肉はいいぜー? ピクピクさせれば退屈《たいくつ》しのぎにもなる」
「|黙《だま》れ! 国内に無駄《むだ》な混乱を起こし、余の権力|失墜《しっつい》を望む謀反《むほん》者めが! フォングランツ、その存在は余の完全無欠絶対統治、名付けて『わが銅像《ドウゾー》』計画の道程における大きな障害である。同族といえど造反、|出奔《しゅっぽん》は国家の大罪。この際、血を流すことも厭《いと》わぬ……!」
 天を指した右腕を派手に振り下ろし、食指が真っ直《す》ぐにアーダルベルトを狙《ねら》う。死刑宣告三秒前。
「やむを得ぬ、おぬしを|斬《き》るッ! 正義の刃《やいぱ》を身に浴びて、福本清三の如《ごと》く|倒《たお》れるがよい!」
「|誰《だれ》だそりゃ」
「成敗《せいばい》ッ」
 雪の積もったユーリの足元には、紅《くれない》に染まった「正義」の二文字。彼の頭上だけにはらはらと舞《ま》い落ちる、薄桃色《うすももいろ》の桜吹雪《さくらふぶき》(でも雪)。
 地上に残されたコンラッドは、不穏《ふおん》な単語の連続に言い知れない不安を感じていた。
 ここからでは、はるか上方の舞台の様子は判《わか》らない。だが、声しか聞こえないにもかかわらず、いつもの彼との違いに|戸惑《とまど》う。
 何かが違う。これまでのユーリとは、どこかが大きく異なっている。取り越《こ》し苦労《ぐろう》であればいいのだが。
 とりあえず、斬るといっておきながら、ユーリの攻撃方法が剣ではない点は通常どおりだ。
「くそっ」
 ウェラー卿は|装飾《そうしょく》用の短剣を引き抜《ぬ》き、舞台の土台ともいえる円柱に突き立てた。次いで長剣を上に刺《さ》し、腕の力で身体《からだ》を引き上げる。まずその二つを足掛《あしが》かりに、一歩ずつ登るしカない。
「うおおっ、雪が」
 誰かが|恐怖《きょうふ》のあまり|叫《さけ》んだ。
 大雑把《おおざっぱ》な女体の形をとっていた雪|溜《だ》まりが、|突如《とつじょ》として表情を変え、アーダルベルト目がけて急降下してくる。
 落ち窪《くぼ》んだ眼窩《がんか》と怒りに広がった口。ちなみに縦長。音声をつければ「あおぅ」だろう。
 場内に高音のラッパが流れた。避難《ひなん》警報発令だ。
 上空は紋様《もんよう》を描く雪風が荒《あ》れ狂い、超《ちょう》局地的な悪天候となっている。ピンポイント吹雪《ふぶき》だ。だが、魔術に従う自然現象の余波で叩きのめされても、席を立つ客は|皆無《かいむ》に等しかった。
 こんな闘《たたか》いは一生の内にそう何度も見られるものではない。皆《みな》、爆裂《ばくれつ》とうきび粒《つぶ》を持つ手も止め、|膝《ひざ》に零《こぼ》した酒もそのままだ。飛ばそうとした急上昇風船に吹《ふ》き込んだ息が、口の中に逆流している者もいる。振り上げた拳を下ろすのも忘れている者、開いた口が塞《ふさ》がらない者。中には逃《に》げたくても恐怖のあまり動けず、今夜うなされることが確定した者達もいた。
 こんなに凄《すご》いものが見物できるのなら、流れ雪に当たって被害《ひがい》を受けてもかまわない。女房《にょうぼう》に実家に帰られても、今晩ばかりは門限破りだ。
 勇敢《ゆうかん》というよりも|享楽《きょうらく》的。意外に砕《くだ》けたシマロンの国民性。
 白い魔像《まぞう》に襲いかかられ、アーダルベルトは短く舌打ちした。僅かに怯《ひる》み後方によろめくが、すぐに冷静さを取り戻す。指を擦りほんの一滴の血を刃先《はさき》に残すと、何事か|呟《つぶや》いて顔の前に剛直《ごうちょく》な武器を翳《かざ》す。
 |一瞬《いっしゅん》にして剣が真っ赤に染まり、鋳造途中《ちゅうぞうとちゅう》の鉄のような熱と輝きを放つ。突っ込んでくる雪像が、真っ二つに割かれて蒸気となった。
「なに!?」
 初めての経験に魔術の使い手は動揺《どうよう》を隠《かく》しきれない。これまで誰一人《だれひとり》として|抵抗《ていこう》する敵はいなかったのだ。決して同族だからと手加減したわけではなかった。本当だ。あのちょっととぼけた冷たい鬼女《きじょ》だって、雪ギュンターよりも数倍|怖《こわ》い。
「……ははあ。人間の地で、その上|隣《となり》に|神殿《しんでん》まであるってな素晴らしい|環境《かんきょう》で、これだけ魔術が使えるたぁたいしたもんだ。さすがは王になるべく生まれた魂、並みの魔族とは違うってとこか」
 蒸発した水分はすぐに|冷却《れいきゃく》され|結晶《けっしょう》と化し、再び魔王の忠実な要素として攻撃に備える。白い蜂《はち》が群をなすみたいに、空は雪粒で埋《う》められた。
「凄《すげ》ぇな、ハエの大群」
 なんという不潔なことを。発想からして汗くさい男は、嘲笑《ちょうしょう》ともとれる形に唇《くちびる》を歪《ゆが》ませた。
「だが、あまり調子に乗るなよ。相手が必ず無抵抗で、お前の足元に|跪《ひざまず》くとは限らんぞ」
 |煙《けむり》を上げていた熱の剣が、|徐々《じょじょ》に元の色を取り戻す。
「忘れたか? オレは魔族としての自分を捨てた。地位も身分も名も……魔力もな。だが代わりに得たものも多くある。人間の使う法術もそのひとつだ」
 腿《もも》から離《はな》した左手を軽く開く。五本の指先に、青い染《し》みが広がった。
「ここは法力に従う要素に満ちている。さすがに大国シマロンの神殿だけあるな。もっともこんな空気の変調など、偉大《いだい》なる陛下には|些細《ささい》なことかもしれんがね。だが、オレが法術を操《あゆつ》るには絶好の場所だ」
 青銅色の染《し》みは炎《ほのお》となり、指を離れ宙を漂《ただよ》った。墓場の燐《りん》によく似ている。
「しかも相手は当代魔王ときた。いいねえ、痺《しび》れるね。こんな好機は二度とないだろうよ」
「……余の成敗に逆らうか」
 |漆黒《しっこく》の|瞳《ひとみ》が、冷酷《れいこく》に|煌《きら》めく。平素の彼を知る人が見れば、別人かと思うほどだ。
「よかろう、フォングランツ・アーダルベルト。おぬしとその血族はたった今、余の粛清《しゅくせい》目録の頂点に記された。第二十七代魔王の名において、グランツ家の|末裔《まつえい》までの排除《はいじょ》を宣言する」
「待て! 親族は関係がないだろうが」
「王に仇《あだ》をなす一族など、余の治世には|邪魔《じゃま》なばかりだ。ああ、だがフォングランツ、おぬしが気に病《や》むことはないぞ。ただ辿《たど》り着く先で待つがよい。今この小雪|舞《ま》う|舞台《ぶたい》上で、グランツの血を引く者のうち、誰より先に|地獄《じごく》へと送ってやろう」
「おいおい、何か人格が変わってきてねえか? お株《かぶ》を奪われてるような気がするぜ」
 ふと目線を下げると足元の血染めの文字が、いつもの形と少々違う。「正義」ではなく「止義」だ……一本足りない!
「問答無用ッ、|覚悟《かくご》せいアーダルベルト! 割れ顎《あご》をいっそう割ってくれるわ!」
「ちっ」
 |巨大《きょだい》な雪像が細かな塊《かたまり》に分解した。親指程度の小さな飛行物体が、アーダルベルトをぐるりと取り囲む。歯を剥《む》き出して標的に向かう姿は、雪の|妖精《ようせい》に囲まれているというよりも、肉食|昆虫《こんちゅう》が集団で獲物《えもの》を|襲《おそ》うようだ。
 青い鬼火《おにび》が目にも留まらぬ速さで飛び回り、次々と敵を融《と》かしてゆく。蒸発しても湯気はすぐに冷やされ氷粒になり、魔術の使い手の元へと戻っていった。
 埒《らち》があかない。
 ユーリは焦《じ》れて唇を噛《か》み、頭上で吹雪を一度だけうねらせた。思いどおりに動くのを確かめると、右手を高々と挙げて指を鳴らす。氷を含《ふく》む風は強力な刃となり、倒すべき男に斬りかかる。
「……うっ」
 アーダルベルトは赤々と透《す》き通る剣を翳《かざ》し風刃を避《よ》けたが、頬《ほお》と両の肩を深く裂《さ》かれた。温かなものが顎まで伝う。その血に群がるようにして、奇怪《きかい》な雪の精が飛びかかった。
 いつにもましてグロテスクだ。
 どの角度からどう見ても、ユーリが悪でアーダルベルトが善人に見える。場内に沸《わ》き起こる熱いフォングランツコール。今、|闘技《とうぎ》場は一体となった。
「うるせえぞ、虫みてーにブンブンブンブンと……ッ!」
 新巻鮭《あらまきざけ》を大きく振《ふ》り回す。たかっていた白い連中が分散し、再び上空の吹雪と合流する。アーダルベルトは氷の刃を切り裂きながら、十歩ほど走って間合いを詰《つ》めた。元々そう広くもない円舞《えんぶ》台だ。すぐに斬り合える|距離《きょり》になる。
「お前の魔術がオレを殺すよりも、オレの剣《けん》がお前の喉《のど》を突《つ》くほうが先だろうよ。さあ魔王、早く試《ため》してみろ。その指で、雪球でも何でもぶつけて見せろ」
「……いいだろう」
 ユーリが指を鳴らすのと、アーダルベルトが下から剣を突き上げるのとは同時だった。だがその数|拍《はく》前にコンラッドが、|乏《とぼ》しい足場でどうにか頂上へと登り着いた。
「やめろアーダルベルト!」
 遅《おそ》い。魔族を捨てた男の一連の動作は、既《すで》に止められる段階ではなかった。コンラッドの言葉が聞こえたとしてもだ。
「ユーリの|魂《たましい》はジュリアのものだ!」
 切っ先は、皮膚《ひふ》一枚を|斬《き》っただけでぎりぎり左に逸《そ》れた。
「なに……?」
 つんのめって前に|倒《たお》れ込んだアーダルベルトの上に、|容赦《ようしゃ》ない|豪雪《ごうせつ》が|雪崩《なだ》れてきた。武器を|握《にぎ》る|右腕《みぎうで》の肘《ひじ》から先を残し、雪山の下敷《したじ》きとなって動きが止まる。
 数秒間静まり返った客達が、バネ仕掛《じか》けみたいに|一斉《いっせい》に立って|歓声《かんせい》をあげる。
 勝者は振り返った。
「……だ……」
 |誰《だれ》だと問いかけそうになりながらも、コンラッドは口を噤《つぐ》んだ。冷たく、人を引きつけて離さない眼《め》をしている。
 だが|優《やさ》しさは、欠片《かけら》もない。
 
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%