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今日からマ王10-8

时间: 2018-04-30    进入日语论坛
核心提示:     8 一九八〇年代・春、ボストン「その人達の|活躍《かつやく》のお陰で、アメリカが戦争に勝てたのでーす」 無理や
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      8 一九八〇年代・春、ボストン
 
「その人達の|活躍《かつやく》のお陰で、アメリカが戦争に勝てたのでーす」
 無理やり終戦理由にまでこじつけて、クリスタルは展示物の説明を終えた。本日最後の団体さん達は、端《はな》から聞く気などありはしない。二十人のうち半分は階段の手摺《てす》りを|滑《すべ》り降りて遊んでいるし、残りの大半は出口近くの標本に夢中だ。髪型《かみがた》を気にする女の子達は、|扉《とびら》の隙間から外を覗《のぞ》いては雨の強さを嘆《なげ》いていた。小学生の割には発育のいい二人など、人目も気にせず長いキスの真っ最中だ。
 幼女のミイラの目の前で。
 呪《のろ》われてしまえー。クリスタルは|不謹慎《ふきんしん》なことを考えた。
 ただ一人、|真面目《まじめ》に聞いていたであろう赤毛の少年が、眼鏡《めがね》の中央を人差し指で押しながら|訊《き》いてきた。子供向け映画に必ずいる、典型的な秀才《しゅうさい》君タイプだ。
「でもさあ、もしドイツがその『洪水《こうずい》を起こす箱』を使ってたとしても、合衆国の敗戦はありえないよねえ。だってアメリカとドイツの間には海があるんだよ? 水なんかいくらでもあるじゃない」
「そうね、でもフランスやイギリスのあるヨーロッパ大陸では、大きな|被害《ひがい》が出たかもしれないでしょ」
 |途端《とたん》に子供はピクルスでも見るような眼《め》をクリスタルに向けた。
「イギリスは島だよ。あんた大学生でしょ、そんなことも知らないの? なーんだ、|嘘《うそ》くさい嘘くさいと思って聞いてたけど、やっぱりこの話って適当に作ったファンタジーだったんだー」
「ふぁ、ファンタジーって……」
「じゃあやっぱり、これも偽物《にせもの》?」
 秀才君は硝子《ガラス》の奥の展示物を指差した。断面から爪《つめ》の先端《せんたん》まで気味の悪いほど白い左腕が、赤い布の中央に収まっている。ぱっと見ただけでは石膏《せっこう》像の一部にしか見えない。だが表面は蝋《ろう》のように滑《なめ》らかで、|掌《てのひら》には胼胝《たこ》や細かい傷など、美術品に必要のないものまで残っている。
「もしこれが偽物だとしたら……」
 子供は答えを聞きもせず、出口近くの仲間の元へ走って行ってしまった。
「あんたたち、雨が弱くなってから帰りなさいよー」
 クリスタルは溜《た》め|息《いき》と共に名札を外し、管理人室に|鍵《かぎ》を取りに向かう。
 今日はもう終わりだ。今日も、もう終わりだ。いつもと同じように見学者は小学生の集団ばかり。それも個人的な興味からではなく、居残りに代わる罰《ばつ》として嫌々《いやいや》来た子供達ばかりだ。事実上無料の小規模な博物館だし、治安のいい場所に建っているから、地元の学校によく利用される。博物館のボランティアは性《しょう》に合っているが、時々は大人相手のガイドもしたいものだと思う。
 クリスタルはどちらかというと地味めな館内を見回して、次こそは派手で大きい金ピカの物を陳列《ちんれつ》しようと決意した。
 館長には悪いけれど、客を引きつける目玉も必要だわ。
「結末は?」
 不意に声をかけられて、手にしていた名札を落としそうになる。誰もいないと思っていた館内に、まだ見学者が残っていたのだ。
「結末はどうなったんです、これの話の」
 彼は硝子ケースの中を指差した。袖《そで》から雫《しずく》が滴《したた》り落ち、足元に小さな水溜まりを作る。濡《ぬ》れて額にはりついた髪《かみ》を、|鬱陶《うっとう》しそうに右手で払《はら》った。|薄茶《うすちゃ》の瞳が露《あら》わになる。
「……雨、そんなに酷《ひど》い? タオルを持ってきましょうか」
 興奮で、微《かす》かに声が震《ふる》えた。
「構わない。少し話を聞きたいだけだ」
「この国の人じゃないのね。ボストンヘはどうして? 観光?」
「いや。任務というか、仕事というか」
 言葉は丁寧《ていねい》で正確だった。どの地方の|訛《なま》りもない。歳《とし》はそう変わらないはずなのに、纏《まと》う雰《ふん》囲気[#「囲気」にはルビ無し。ここは改ページ部分にあたり、忘れたのかも。]がまるで違う。物腰《ものごし》や|喋《しゃべ》り方だけではなく、生きてきた過程が異なるのだろう。任務と言いかけたことから推測すると、どこかの国の軍人かもしれない。
「箱を|沈《しず》めた後、彼等がどうなったのか知りたい」
「……アンリ・レジャンはそれからしばらくして亡《な》くなったわ。大戦中に、船医として乗り込んだ民間船が味方に誤爆《ごばく》されたんですって。DTとコーリィは今でも健在よ。子供が四人、孫が六人。二人目の女の子は女優になるって言って、十五で家出したきりだけど……長男夫婦は店を継《つ》いでいるし、下の二人もボストンに住んでるわ。去年、|曾孫《ひまご》が生まれたの。もう八十を過ぎてるけど、赤ちゃんを抱《だ》いてご|機嫌《きげん》よ。常に最新鋭《さいしんえい》の店ですって、チャイナタウンではちょっと有名なの」
 相手が少し怪訝《けげん》そうな顔をしたので、クリスタルは慌《あわ》てて付け加えた。
「ウィンドウが最新鋭の防弾《ぼうだん》ガラスなのよ。お店を継いだマイケルは|呆《あき》れてるけど、これだけは絶対に譲《ゆず》れないんですって」
「ミス・グレイブスと……デューターという男は?」
 |不愉快《ふゆかい》に思われませんようにと念じつつ、クリスタルは青年の|瞳《ひとみ》を覗き込んだ。展示物の照明が照らし込まれて、|虹彩《こうさい》の具合までは|確認《かくにん》できない。
<img height=600 src=img/209.jpg>
「……エイプリル・グレイブスはその後も仕事を続けたわ。あるべきものをあるべき場所へ。大きな博物館で大々的に飾《かざ》られるような宝物や、皆《みな》が崇《あが》める聖杯《せいはい》は|扱《あつか》わなかったけどね。十年前にグレイブス財団がこの博物館を建てたの。所蔵物の|殆《ほとん》どはヘイゼル・グレイブスと、その後継者《こうけいしゃ》であるエイプリル・グレイブスの手掛《てが》けた物よ。もっともそれを知っているのは、ほんの一握《ひとにぎ》りの人達だけ。さすがにもう引退はしたけれど、エイプリル・グレイブスもリチャード・デューターもとても元気よ。今は慈善《じぜん》団体の理事をしていて、毎日|忙《いそが》しく国中を飛び回ってる……ああもう|我慢《がまん》できないっ、あたしのほうから訊いちゃっていいかなあ」
 彼は腕《うで》を腰《こし》に当てて立ち、|僅《わず》かに首を傾《かし》げて言葉を促《うなが》した。
「ねえ、まさかあなたは|椅子《いす》でケースを叩《たた》き割ったりしないわよね?」
「しないよ。そんな乱暴なこと」
「だって、あなたそっくりなんだもの。おじいさまの若い頃《ころ》の写真に」
「そんなに?」
 ええ、そう。それに瞳も同じ。薄茶に銀の光を散らした虹彩。
 その独特の瞳を|眇《すが》めて、彼は偽物の「鍵」を見た。それからもう一度、濡れた|前髪《まえがみ》を掻《か》き上げ、聞き取りやすい、教科書みたいな英語で言った。
「ある人に|紹介《しょうかい》されて、きみに仕事を頼《たの》みにきた。厳重な警備の保管庫から、レプリカではなく本物の『鍵』を持ちだしてもらいたい」
「でもそれは、おじいさまの家に代々……」
 クリスタルは目の前の青年を見詰《みつ》め、喉《のど》の奥でゆっくりと五つ数えた。最後のカウントが終わった頃には、既《すで》に心は決まっていた。
「いいわ。任せて、旅の人。あたしが必ず取り戻《もど》すから」
 エイプリル・グレイブスは彼女を後継者に選んだ。クリスタルには判《わか》っている。祖母が自分に託《たく》したのは、数字では表現できないものだ。
 あたしには、箱と鍵に対する責任がある。最も|相応《ふさわ》しい場所と所有者に、譲り渡《わた》さなくてはならない。
「その代わり、じっくり話を聞かせてちょうだい。|誰《だれ》かと夕食の約束はある? もしよかったら最新鋭の店を紹介するわ。そこでゆっくり話をしましょう。あなたの名前と生《お》い立ちから」
 
 そう、大切なことは何もかも祖母に教わった。
 人を信じる方法も。
 
 ムラケンズ的乱入宣言[#この行は太字]
 
「ムラタ〜ムラタ〜ムラムラで〜、ムラタ〜ムラタ〜ムラムラよ〜、ムラタ〜ムラタ〜ムラムラで〜、この世はムラタのためにあるー! こんばにゃーん、ムラケンズの頭のいいほう、ムラケンこと村田健です」
「なに甲子園《こうしえん》みたいな応援《おうえん》してんだよ。お前が頭のいいほうなら、おれはどっちのほうって自己|紹介《しょうかい》すればいいんですか。守備のいいほうですか、|打撃《だげき》のいいほうですか」
「ん? |普通《ふつう》に埼玉《さいたま》の方の渋谷有利ですって言えばいいんじゃない?」
「……コンビってそういうもんじゃないだろう」
「ところで渋谷、世界は|誰《だれ》のためにあると思う?」
「なんだかまた哲学《てつがく》的なことを言いだしましたよ、この独りボケツッコミ戦隊ダイケンジャー様は」
「今のところ、俺様のためにある派と、あなたのためにある派と、二人のためにある派の三勢力が拮抗《きっこう》してるんだけど。番外で、ブラピのためにある派とか地球のためにある派とか|α《アルファー》波とかアルファルファとかもあります」
「あ、そういえば最後のやつな、昔おふくろが凝《こ》っちゃってさあ。よく食わされたよ。アルファルファ。栄養あるんだってなー」
「うん、で、世界は誰のためにあると思う?」
「……そんなのおれに判《わか》るわけないじゃん。でも別に誰のためでもないと思うよ」
「だよねー? そうだよねえ。だったら別に僕等が他の人主役の世界に乱入しても構やしないよねー? 僕が乱入する! って言ったら、もちろん渋谷も付き合ってくれるよねえ? だって僕等、二人|揃《そろ》ってムラケンズだもんね」
「……タッグってそういうもんじゃないだろう」
「いやもうねー、レジャンさんの話だよ。レジャンさん。僕はもう彼が不憫《ふびん》でならないのね。割と早死にだし、友達もあまりいなさそうだし。秘密も打ち明けられなかったし、眼鏡《めがね》だし」
「お前も眼鏡だろ。それより、レジャンて誰?」
「それに比べて僕はね、なんて恵《めぐ》まれてるんだろうと思うわけよ。長生きの予定だし、友達もいるし、秘密を打ち明ける相手もいるし、かっこいい眼鏡だし」
「眼鏡は眼鏡だろ、ていうか眼鏡は人生の|充実《じゅうじつ》度と関係ないだろ? で、レジャンって誰?」
「関係あるよ! あんなビン底みたいな眼鏡かけられるかい!? 僕はいやだね。ケント・デリカットじゃないんだから」
「村田、時代時代。時代考えないと。そういう眼鏡が主流の時代もあったから」
「それにさ、数少ない友人の一人の名前もね、|DT《ディーティー》って。DTって何の略だろうって話だよ。ダウンタウン? ドストエフスキーとトンカツ? 猫《ねこ》ダい好きトリスキー?」
「猫と鳥どっちが好きなのかはっきりしろよ! だからDTって誰!?」
「それにさー、パーティー組まされてるメンバーもあれだよね、結構普通だよね。アメリカのお金持ちとドイツ人将校なんてさ」
「ふ、普通か?」
「その点、僕なんか|凄《すご》いよ。|魔王《まおう》とわがままプーと女装中毒だもん。んもう、マニア垂涎《すいぜん》の組み合わせ! プロ野球チップス買わされても|滅多《めった》に出ないから!」
「いやあれはプロ野球カードしか出ねえから。でもどっちかっつーとお金持ちと組むほうが得な気もする……それでレジャンとDTって結局誰?」
「なんだよ渋谷、|所詮《しょせん》きみもカネスキーなのか。そりゃそうだよな、お父さん銀行屋さんだもんね」
「でもホラ、なんだかんだ言ってRPGじゃお金は大事だろー? いい装備も揃えられるし、温泉宿で体力回復もできるし。あーでも結局エリクサーとかコテージとか、買い込みすぎて余っちゃうんだけどね。こういうとこおれって無計画というか準備しすぎっていうか……」
「渋谷……ゲームじゃなくてもっと現実の世界を見なよ」
「お前に言われたくないよ……それより、レジャンとDTって誰? なあ、誰なのー!?」
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