長者の家には、立派な金の仏さまがあります。
男はたいへん信心(しんじん→神仏を信仰する気持ち)深くて、
「なんて立派な仏さまだろう。自分もあんな仏さまを持っておがみたいものだな」
と、思っていました。
ある日の事、男は山へ仕事に行って、仏さまそっくりの木の切れはしを見つけると、ひろって持って帰りました。
そして、自分の部屋におまつりしたのです。
男は毎日、自分のおぜんをお供えして、木の仏さまをおがみました。
でも、ほかのみんなはそれをバカにして、男をいじめるのです。
男はとてもよく働くので、このままいじめられてよそにいかれては大変と、長者はこんな事を考えました。
「お前さんのおがんでいる木の仏さまと、わしの持っている金の仏さまとを、一度、すもうをとらせてみようではないか。木の仏さまが負けたなら、お前は一生、わしのところで働くんだ。その代わり、もしわしの金の仏さまが負けたなら、わしの持っている財産は、みんなお前にやろう」
男はびっくりです。
さっそく木の仏さまの前へ座ると、手を合わせていいました。
「大変な事になりました。あなたさまと金の仏さまとが、おすもうをおとりになるのです。どうしましょう?」
すると木の仏さまは、男にいいました。
「心配するな。強い相手だが、わしは勝負をしてみるよ」
いよいよ、すもうをとる日です。
大きな部屋で、金の仏さまと木の仏さまは向かいあって立ちました。
長者は二つの仏さまに、勝負に負けるとどうなるかを説明すると、
「さあ、始め! はっけよい、このった!」
と、うちわをあげて、開始の合図をしました。
すると二つの仏さまは、グラグラと動き出して近寄って組み合いました。
押したり押されたり、なかなか勝負がつきません。
長者も使用人の男も、ハラハラしながら応援(おうえん)しました。
「金の仏さま負けるな!」
「木の仏さま負けるな!」
最初の方は金の仏さまが優勢でしたが、そのうちに金の仏さまの体中が、汗でびっしょりになってきたのです。
汗だけでなく、足もフラフラです。
これは大変と、長者は大きな声で叫びました。
「金の仏さまが、そんな木ぎれの仏さまに負けてどうするのです! がんばってください! がんばってください!」
けれど金の仏さまは、とうとう倒れて負けてしまいました。
疲れ果てて、起きあがる力もありません。
その間に木の仏さまは、今まで金の仏さまがまつられていた仏壇の上へあがって座りました。
「ありがたい、ありがたい」
みんなは、その木の仏さまをおがみました。
負けた長者は、約束通りに家を出ていきました。
長者の家は、もう使用人の男が主人です。
金の仏さまを抱いた長者は、野原をトボトボと歩いていきました。
そして、金の仏さまにいいました。
「お前さんは、どうしてあんな木切れの仏さまなんかに負けたのだね」
すると、金の仏さまは答えました。
「相手は木の仏だが、毎日毎日、おぜんを供えてもらって信心されていた。それなのに、わたしは一年に、ほんの二度か三度、お祭りのときにおぜんを供えてくれただけ、それにお前さんは、信心もしてくれない。力が出ないのは、当たり前ではないか」
金の仏さまは、悲しそうに泣きました。
「・・・・・・」
長者は、返す言葉がありませんでした。