きっちょむさんは、あまりお金持ちではありませんが、お金がなくなってくると、ヒョイと、いい知恵が浮かんでくるのです。
ある日の事、きっちょむさんは畑仕事をしながら、町へ行く通りがかりの人を呼び止めては、
「すまんが、町のあらもの屋で、ウシのはなぐりを買ってきてほしいんじゃ。数は、いくつあってもいい。値段は、なんぼ高くてもかまわん」
と、変な事を頼みました。
みんなが引き受けてくれましたが、帰ってきて、
「あいにく、売り切れとるそうじゃ。ウシの鼻につなを通す、はなぐりの輪など、めったに売れるもんではないから、ふだんはおいてないそうじゃ」
「おれもずいぶん探したが、一つもなかった。『今日はいく人も、はなぐりを欲しいという人がきた。こんな事なら、たくさん、しいれておけばよかった』と、くやしがっとったわい」
と、口々にいいました。
「それはどうも、すまん事じゃった」
きっちょむさんは、ガッカリするどころか、喜びながら家に帰りました。
さて次の朝、きっちょむさんは、作ってためておいたウシのはなぐりを、町へかついで行って、
「ウシのはなぐりはいりませんか?」
町中のあらもの屋をまわりました。
「これはいいところにきてくれた。いくつでもおいていってくれ」
昨日、もうけそこなっているので、どこのあらもの屋でも、喜んでしいれてくれました。
「さあ、これで、昨日のお客が来てくれれば、ひともうけできるぞ」
あらもの屋は、もうけのそろばんをはじきましたが、ウシのはなぐりは、さっぱり売れません。
もうかったのは、きっちょむさんだけでした。