ある年のくれ、二人が大掃除をしていると、やせたネズミのようなものが神棚(かみだな)から出てきました。
「わしは貧乏神(びんぼうがみ)だ、お前たちがあんまりまじめに働くから、わしはこの家を出て行くよ。たっしゃでな」
そういって、貧乏神はヨタヨタと歩き出しました。
すると夫婦は、
「貧乏神と言っても、神さまには代わりありません。どうか、この家にいて下さい」
「うん? わしは、貧乏神だぞ」
「はい、貧乏神さま。大切にしますので、どうか、お願いいたします」
と、言って、無理矢理(むりやり)に貧乏神を神棚に押し戻しました。
それから夫婦は、毎日神棚に食べ物を供えて、コツコツとまじめに働き続けました。
やがて気がつくと、いつの間にか夫婦は、お金持ちになっていました。
そこで、倉(くら)のある大きな家をたてました。
今日は、引っ越しの日です。
夫婦は神棚に向かって言いました。
「さあ、貧乏神さま。一緒に新しい家に参りましょう」
すると神棚からは、きれいな着物を着た神さまが出てきたのです。
「お前たちのおかげで、これこのとおり。礼を言うぞ。これからもよろしくな」
夫婦に大切にされた貧乏神は、いつのまにか福の神になっていたのです。