日本のキツネは頭が良いと聞いたので、キツネと勝負をしようと思ったのです。
トラはキツネを見つけると、さっそく言いました。
「俺は中国から来たトラだ。何でもよいから、お前と勝負をしたい」
「ふーん、勝負ねえ」
キツネは、竹やぶを見ながら言いました。
「勝負なら、竹やぶの中での早歩き競争はどうですか? 時間は明日の朝。こっちの竹やぶの端から出発して、反対側の端まで先に到着した方が勝ちです」
「よし、それはいい」
トラは、ニヤリと笑いました。
トラは竹やぶの中に住んでいるので、竹やぶの中での早歩き競争なら勝ったも同然です。
けれどキツネには、ちょっとした考えがあったのです。
キツネはトラと別れると、すぐに仲間のキツネを集めて早歩き競争の事を話しました。
「いいか。ここで負けたら、我々日本のキツネの恥になる。
そこでだ。
今夜のうちから、みんなはあちこちに隠れていてほしいんだ。
そしてぼくが、
『よーい、どん!』
と、大声で言ったら、ぼくのふりをして先に反対側の端で立っているんだ。
中国のトラは、キツネと言う生き物はぼくしかいないと思っている。
だから反対側の端にキツネが立っていたら、てっきりぼくが先についたと思ってくやしがるだろうよ」
「よし、わかった」
仲間のキツネは、さっそくあちこちに隠れました。
さて、朝が来ました。
トラは大はりきりで、竹やぶの出発点にやって来ました。
「では、トラさん、始めますよ」
キツネはそう言うと、大きな大きな声で
「よーい、どん!」
と、言いました。
するとトラは、さっそく早足で竹やぶの中を歩き始めました。
一緒に歩き始めたキツネを引き離して、ぐんぐんと竹やぶを進んで行きます。
「わはははは。おろかなキツネめ。このおれにかなうものか」
トラは、大笑いです。
ところが反対側の端近くに来て、トラはびっくりです。
なぜなら、ずっと後ろにいるはずのキツネが、にやにや笑って立っていたからです。
「なぜだ!」
トラはくやしがって、キツネに言いました。
「もう一度勝負だ。ここから元の場所まで競争しよう!」
「いいですよ。では」
キツネは、大きな大きな声で、
「よーい、どん!」
と、言いました。
トラは、さっきよりも頑張って、竹やぶの中を進みました。
「よし、今度こそおれさまの勝ちだ」
そう思ったのですが、最初の場所にはすでにキツネが立っています。
「トラさん。遅かったですねえ」
トラは、またまたくやしがり、もう一回、もう一回と、それから七回も競争を繰り返しました。
でも、何度やっても同じ事です。
「ちくしょう、おれさまが負けるなんて!」
くたくたにくたびれたトラは、くやし涙をこぼしながら中国へ帰って行きました。
けれど中国に帰ったトラは、キツネに負けた事がどうしてもくやしくて、自分の家来のネコに命令しました。
「お前たち、日本へ行って、キツネに噛みついてやれ!」
でもトラが日本へ送ったネコは、とてもあわてん坊のネコで、『キツネ』と『ネズミ』と聞き間違えて日本に来てしまったのです。
それで今でも、ネコはネズミを見つけると、追いかけまわすのだそうです。