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八墓村-第四章 四番目の犠牲者(10)

时间: 2022-06-06    进入日语论坛
核心提示:それからいったい、どのくらい步いたであろうか。くらやみのなかの、しかもはじめての体験では、見当もつきかねたが、間もなく私
(单词翻译:双击或拖选)

それからいったい、どのくらい步いたであろうか。くらやみのなかの、しかもはじめての体験では、見当もつきかねたが、間もなく私はバッタリとひろい階段につきあたった。それはさっき私が降りてきたような、天然の岩をきざんでつくった石段だったが、私は案外はやく、トンネルの終点へつきあたったのが物足らなかった。この階段をのぼっていけば、きっとどこかの地上に出られるのだろうが、それではあまり呆あっ気けなさすぎるように思われてならぬ。

それでもほかに行くところがない以上、私はこの石段をのぼらねばならなかった。そこで右手にろうそくを持ち左手を壁について、一步階段に足をかけたが、そのとたん思わずどきっと足をとめた。左手をついた洞壁がぐらりと揺れたような気がしたからである。私は驚いて、ろうそくの灯でその岩壁をあらためた。しかし、べつにかわったところもなく、乳灰色の縞のまじったふつうの壁である。

私は試みにその壁をついてみたが、動く、動く、岩はたしかに動くのである。

私はもう一度ろうそくの灯で、子細に岩壁をあらためたが、そのときふと足下にくろい布のようなものが落ちているのに気がついた。何気なくそれを拾いとろうとして、そこでまた私は、どきりと息をのんだのである。それはたしかに、小梅様か小竹様かの道行きの片袖そでであり、しかもそれは岩の下からはみ出しているのだ。

私はなんともいえぬ興奮にジリジリと額から汗がふき出してくるのをおぼえた。昨夜小梅様と小竹様は、この岩をとおって出入りをしたのだ。すなわち、この岩は動くのだ。小梅様と小竹様のような老婆にして、この岩を動かすことができるならば、私にだって動かせぬはずがあろうか。

私はもう一度、ろうそくの灯で子細に岩をあらためたが、すぐにからくりを見破ったのだ。岩には縦に大きく一条の割れ目が走っている。その割れ目のまえにろうそくをもっていくと炎がはげしくまたたくところからみても、この岩の向こうが空洞になっていることがわかるのである。その割れ目にそってろうそくを移動させていくと、ちょうど人が四つんばいになって出入りができるくらいの大きさの、アーチ型の岩が、他の壁とは独立して、そこにおかれてあることがわかった。

私はなおも入念に、階段の下を調べてみたが、するとアーチ型の岩のそばに、鍾乳筍しょうにゅうじゅんが三、四本出ているのだが、その一本が鍾乳筍ではなくて、鉄でできた梃であることに気がついた。すぐに私がその梃を、押してみたことはいうまでもない。

私の思ったとおりであった。アーチ型の岩は私が梃を押すにつれて、少しずつ向こうへひらき、そこにやっとひと一人、通れるくらいの道ができた。その洞ほら穴あなの向こうもまっくらである。

私はふかく息を吸うた。そして、梃をはなしても、岩が静止していることを見とどけたのち、その洞穴のなかへもぐりこんだ。洞穴の向こうがわにも、鍾乳筍に似た梃がある。その梃によって、自由に岩が開閉できることを見定めたのち、私は改めて、この新しい横孔を観察してみた。

この横孔こそ、いま私が通ってきた、人工のトンネルとちがって、自然にできた鍾乳洞なのだ。そこには一面に鍾乳石がぶらさがり、大きさもさっきのトンネルにくらべると、だいぶ小さく、よっぽど用心をしていなければ、頭を天井にぶっつける危険があった。

これらの鍾乳洞の景観については、もっとのちに詳しく述べる機会があろうと思うから、ここでは割愛して筆をさきにすすめることにする。第一私は、あたりの景観にあまり長く心をとめているひまはなかったのだ。

小梅様と小竹様は、どうしてこのような危ない鍾乳洞などに迷いこんだのか。このような鍾乳洞の奥に、いったいだれをまつってあるというのか。私の心はさまざまな怪しい疑惑に思い乱れた。

それはともかく、鍾乳洞をしばらく行くと、道が二またにわかれている箇所に出くわした。私はちょっと途方にくれた。小梅様と小竹様は、いったいどっちの道へ行ったのか。……地面を調べてみたが、かたい岩のあちこちに水だまりがあるだけで、足跡など残りようはないのである。

私はしかたなしに右のほうへ道をとったが、しばらく行くと、ろうそくの灯がはげしくゆれ出したことに気がついた。と同時に滝のような水の音がきこえてきた。どうやら出口がちかいらしいのである。

私は少し足をはやめた。と、間もなく行く手に、ポッカリ穴があいて、その穴の外に小さな滝が落ちているのを認めた。滝といったところで、溝みぞから溝へと落ちていく、高さ一間けんくらいの滝である。そこまで来たとき、ろうそくの灯が風にあおられ、はたと消えてしまった。

私はどうやら道をまちがえたらしいのである。小梅様と小竹様はきっとさっきの二またを、左へ行ったにちがいない。なぜならば、もしこの滝をくぐったとすれば二人ともずぶぬれになっていなければならぬはずなのだ。

私はよっぽどあとへもどって、左の穴の奥をさぐってみようかと思ったが、あまり時間がおそくなってもと考えなおして、それはまた明晚試みることに腹をきめた。それよりもこの滝の向こうは、村のどのへんに当たるのか、そのほうが私には気になった。

私は思いきって、滝をくぐって外へとび出したが、そのとたん、

「あれッ」

というような悲鳴をあげて、私のすぐそばからとびのいたものがあった。女の声であった。

私はぎょっとして二、三步うしろにとびのくと、相手の姿をすかしてみた。女もブルブルふるえながら、星明かりに、私の姿をすかしていたが、だしぬけに、

「あら、お兄さまだわ」

いかにもうれしげな声を立てて、私の胸にすがりついてきた。典子だったのだ。

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