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八墓村-第六章 春代の激情(18)

时间: 2022-06-16    进入日语论坛
核心提示:搜索复制私は腹の底が固くなると同時に、またなんともいえぬ怒りが、ムラムラとこみあげてくるのを覚えた。「姉さん、それでそい
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私は腹の底が固くなると同時に、またなんともいえぬ怒りが、ムラムラとこみあげてくるのを覚えた。

「姉さん、それでそいつはぼくをどうしろというんです」

「いいえ、そこまでは書いてないが、ただ、犯人はあなたにちがいない。それが証拠に、すべての事件はあなたが来てから起こったことである。あなたがこの村にいるかぎり、血まみれ騒ぎはおさまらないだろう……と、そんなことが書いてあるんだそうです」

心臓の悪い姉は、それだけのことを話すのにも、たびたび息が切れ、いかにも切なそうであった。彼女は元来丈夫でないところへ、うちつづく凶事の打撃もあり、そこへもってきて、私に対する思いやりやら心配から、いよいよ心臓を悪くしているのであった。私はそれが気の毒で、できるだけ心配をかけないようにしているのだが、いまは場合が場合であった。私は思わず膝を乗り出した。

「姉さん、いったいだれがそんな貼り紙をしたのでしょう。いいえ、それよりだれがそんなにぼくのことを憎んでいるのでしょう。警部さんの話によると、このあいだ警察へも、同じような意味の投書があったということですよ。だれかこの村にひどくぼくを憎んでいるやつがあるんです。そいつはぼくをこの村から追い出したがって、いろんなことをやってるんです。姉さん、それはいったいだれでしょう。いったい、だれがどういうわけでそれほどぼくを憎むんでしょう」

「さあ、そんなことわたしにはわからないけれど……でもね、辰弥さん、気をつけてね。まさかと思うけど、村の人は単純だから、どんなことが起こらないとも限らないから……」

姉はそのころすでに村の不穏な空気を察知していたのか、いかにも心細そうな調子だったが、私はまさかそこまで気がつかなかった。

「ええ、それはぼくだって気をつけます。しかし、姉さん、ぼくは心外でなりません。だれがどういう理由で、こんなにしつこく憎むのか、それを考えると、はらわたが煮えくりかえりそうです」

私は男泣きに泣いた。姉は鼻をつまらせながら、やさしく私の肩に手をおいて、

「無理もありません。でもね、辰弥さん、あんまりキナキナ考えないでね。誤解なんですから、いずれは解けるにきまっています。ただ、それまでの辛抱です。ねえ、じっと我慢して、無鉄砲なまねをしないようにね」

姉がいちばんおそれているのは、こんなことから嫌いや気けがさして、私が家をとび出していきはしないかということだった。実際当時の事情では、私にとび出されては困るのだった。小竹様はぼけてしまって赤ん坊も同然だったし、姉自身は心臓が悪くて、ちょっとの働きにも息切れがするのだった。しかし、姉の春代が私を手放すことをおそれたのは、そういう功利的な意味からではなかった。姉は私を愛していたのだ。私を愛するのあまり、片時もそばをはなしたくなかったのだ。私には姉の気持ちがよくわかっていた。いや、わかっていると思っていたのだ。後から思えば、実際は姉の気持ちの十分の一もわかっていなかったのだが。……

それはさておき、だれか必死となって、私をおとしいれようと画策している者があるにもかかわらず、警察ではいっこう、私を挙げに来ようとしなかった。実際、久野おじの死体が発見されて以来、警察は鳴りをしずめている感じで、磯川警部はもちろんのこと、金田一耕助さえも姿を見せなくなった。村のひとたちもまだ直接行動を起こすにいたっていなかったし、また、新しい事件も起こらなかった。どういうものか美也子までが鼬いたちの道で、ちかごろちっともよりつかなくなった。

そういうわけで、それは妙にひっそりと静まりかえった休止期間であった。あとから思えば、それはちょうど激流が、いよいよ滝へかかるまえに、ゆるやかな淵をつくるようなものだったが、そうとは知らぬ私は、むやみにその小康状態がありがたかった。しかし、まさかこういう状態では、宝探しもできないので、せめてこの期間を利用して母の恋文を整理しておこうと思いついた。

そこで姉の許しを得て、N町から経師屋きょうじやを呼びよせると、三酸図屏風を解体して、その中から下貼りに用いられている、母と亀井陽一の恋文を取り出す仕事をはじめた。私はその屏風を家から持ち出すことを好まなかったし、また母の恋文をむやみなひとに見られるのはいやだったので、経師屋に毎日午ひる過ぎから出張してもらって、離れでいっしょに仕事をすることにした。

私にはこの仕事がこの上もなく楽しかったのだ。思えば八つ墓村へ来て以来、ろくなことはなかったが、せめてこれらの手紙を発見したことによって私は自分を慰めた。幼いころ母を失っただれでもがそうであるように、いくつになっても私は母が恋しいのだ。

はじめのうち、姉の春代も気分がよいと、よく離れへやってきて、私たちの仕事ぶりを見物していた。しかし、取り出される母の恋文を読んだりすると姉はすぐ感動して、それが心臓へひびくらしく、のちにはめったにやってこなくなった。

私は毎夜、その日取り出された手紙を整理し、それを読むのを無上の楽しみとしていた。むろんそれらの手紙は、どれひとつとして当時の母の不幸を物語っていないものはなかったが。……

──日夜をわかたぬ責め折せっ檻かんに、つるは身も心もやせ細り……

とか、

──いうこと聞かねば、髪の毛握ってひきずりまわされ……

とかいう文字が、涙ににじんでいるかと思うと、

──かわいがるとて裸にされ、そこらじゅう舐なめ回される気味悪さ、いやらしさ、あさましともなんともいわんかたなき……

と嘆いているところをみると、父の愛あい撫ぶの方法が、いかに風変わりなものであったかわかるのだ。そうかと思うと、

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