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八墓村-第七章 木こ霊だまの辻つじの恐怖(3)

时间: 2022-06-16    进入日语论坛
核心提示:搜索复制小指の傷私の胸はいま絶望と焦燥とにみたされている。いま私はこんなところに隠れている場合ではないのだ。姉がなくなっ
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小指の傷

 

私の胸はいま絶望と焦燥とにみたされている。いま私はこんなところに隠れている場合ではないのだ。

姉がなくなった現在、田治見家に生きのこっているのは役にも立たぬ小竹様ばかりである。私がいないで、いったいだれが姉の弔いをするのか。いやいや、それのみならず私には、もっと重大な義務がある。私は姉を殺した犯人を知っているのだ。左の小指をかみきられて、半分ちぎれそうになった人物。──私は一刻も早くそのことを、警察へ報告しなければならないのだ。

ああ、それだのに私はこの洞窟から抜け出すことができない!

「鬼火の淵」の向こう岸には、吉蔵が焚き火をしながら番をしている。吉蔵のそばに周さんの獰どう猛もうな面構えも見える。こんどの暴動の正副頭目ともいうべきこの二人は、あくことを知らぬ執念と憎悪をもって、私を見張っているのである。さっきの吉蔵のけんまくからして、かれらを説得するなどということはおよそ不可能であろう。

私のただ一つの頼みは警察だった。人殺しがあったからには、警官が出張しないはずはない。警官が出張すれば、証人として私を要求するだろう。そうなったら、吉蔵や周さんがいかにがんばっても、私を引き渡さぬわけにはいくまい。私はそれを待っているのだが、どういうわけか、頼む救いの手はなかなかやってこなかった。吉蔵の焚き火のまわりには、入れかわり立ちかわりやってきて、酒でも出たのか、しだいに騒ぎが大きくなってくるのに、警察の連中はいっこうやってこないのだ。

私の胸にはみじめな思いがみちあふれる。万一にもかれらが「鬼火の淵」を渡ってくることを考えると、「狐の穴」の奥に隠れている私の胸の中には、焦燥の思いがみちあふれた。

諸君よ、諸君はあやめもわからぬ闇の中で、話相手もなく、すごす時間のいかに長いものかを御存じだろうか。実際、私はもしあのとき、恐ろしい物思いの種がなかったら、気が変になっていたかもしれないのだ。

私の恐ろしい物思い。──それは、こうだ。姉の最期に直面したとき、まず第一に私が考えたのは、これもやっぱり一連の、殺人事件の一部だろうかということだった。

祖父の丑松からはじまる一連の殺人事件では、いつも毒薬が用いられた。例外は小梅様と濃茶の尼の場合だけだが、金田一耕助の説によると、妙蓮の場合は番外で、おそらく犯人にとっても、予期せぬ殺人だったろうという。そういえば妙蓮の死体のそばにはあの奇妙な紙片は落ちていなかったそうだ。

では姉の場合はどうか。私は気が転倒していたので、紙片が落ちていたかどうか、注意する余裕もなかったが、もし落ちていたらどういう名前が書いてあったろうか。姉の春代と並立、あるいは対立する人物……おおそれは森美也子のほかにないのではないか。

姉の春代は腎じん臓ぞうが悪くて離縁になったということだからかならずしも未亡人というわけではないが、村では後家で通っている。美也子はあきらかに未亡人だ。しかも西屋と東屋の、それぞれ妹に当たっている。おお、なんということだ。それでは姉が死ななかったら、美也子が殺されたかもしれなかったのだろうか。

だが。……なぜか私はこの考えに、賛成することができなかった。

この一連の殺人を気ちがいのでたらめとするには、田治見家はあまり多くの犠牲をはらいすぎた。小竹様と小梅様は、ともに田治見家のものだから致し方がないとしても、久弥や春代の場合、どうして東屋ばかりが槍やり玉だまにあげられねばならなかったのか。ひょっとすると久弥と春代の場合にかぎって、二人のうちのどちらでもよいのではなく、はじめから犠牲はかれらときまっていたのではあるまいか。

すなわちこの一連の殺人事件は、一見狂信者のでたらめな犯罪とみせかけておいて、その実、田治見家の家族を皆殺しにするために立てられた念の入った計画ではあるまいか。

私はあまりの恐ろしさに、しばらく体がふるえてやまなかった。

だが、こうして動機がわかってみれば、犯人も一目瞭然りょうぜんである。里村慎太郎以外にこの犯人に適合する人物があるだろうか。私はいつか濃茶の尼が殺された晚、ゆくりなくも見た慎太郎のものすごい形相を思い出した。

そうだ、慎太郎なのだ。何もかもかれなのだ。私を警察へ密告したのも、役場のまえに私のことを貼はり出したのも、みんな慎太郎の仕業にちがいない。慎太郎は田治見家のすべてを殺したうえ、その罪を私になすりつけることによって、田治見家の財産を横領しようとしているのだ。それにこんどの暴動だが、ひょっとするとこれも慎太郎の扇動によるのではあるまいか、たとえ私がつかまっても、証拠不十分で無罪になる場合を考えて、てっとりばやく吉蔵や周さんを扇動して殺させようというのではあるまいか。

ああ、何もかもつじつまが合う。すべてが論理的である。私はあまりの恐ろしさに、暗闇の中で二たび三たびふるえあがった。

それにしても、典子はこの事件でどんな役目を演じているのだろうか。彼女もこの計画を知っているのだろうか。知っていて、知らぬ顔の半兵衛をきめこんでいるのだろうか。いやいや、そんなことは考えられぬ。あの無邪気であどけない典子に、そんな表裏があろうとは思われない。それに第一慎太郎は、こんな恐ろしい計画を、たとえ妹であろうが打ち明けるようなことはあるまい。

その日いちにち、真っ暗な洞窟の奥に寝ころんで、私はみみずのように輾てん転てん反側していた。恐ろしい思いや悲しい想いに、体が熱くなったり寒くなったりした。ひょっとすると、病気になるのではないかとさえ思われた。

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