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八墓村-第七章 木こ霊だまの辻つじの恐怖(4)

时间: 2022-06-16    进入日语论坛
核心提示:いっそこの機会に、洞窟の奥をさぐって、宝探しをしてみたら、気がまぎれるのではないかと思ったが、とてもその気にはなれなかっ
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いっそこの機会に、洞窟の奥をさぐって、宝探しをしてみたら、気がまぎれるのではないかと思ったが、とてもその気にはなれなかった。その気になれなかった理由は、恐ろしい思いや悲しい思い出に、頭がいっぱいになっていたせいもあるが、もうひとつは、自分の持っている地図が果たして信頼できるかどうかと疑問を持ったからである。

地図を見ると、いま私のいる「狐の穴」と、隣の第五の洞窟は、奥のほうでひとつになっているらしい。そしてその奥に「竜の顎」があり、すぐその奥に、「宝の山」があるらしいのだが、なにしろ毛筆で書いた簡単な線だけなので、この複雑な迷路の手引きとしては心細かった。

現に私はこのあいだの金田一耕助との探検によって、「狐の穴」がどのような複雑な構造をしているか知っているのだが、地図にはそれがごく不完全にしか現われておらぬ。結局、この洞窟を探検するにはいつか耕助がやってみせたように、綱をひいていくよりほかに方法はあるまい。綱さえあればひとりでもやれぬことはあるまいが、しかし、助手があるに越したことはない。私は典子のことを考えたが、その日はとうとう典子は帰ってこなかった。

典子が帰ってきたのは、その夜も明けてつぎの朝のことである。

「まあ、お兄さま、ここにいらしたの。あちらに見えないものだから、典子、どんなに心配したか知れやあしないわ」

狐の穴に私を探しあてた典子は、いかにも懐かしそうにそういって、私の胸にとびついた。

「ああ、典ちゃん、帰ってきたのかい」

「ええ、帰ってきたわ。お兄さま、昨日はすみませんでした。黙って行ってしまって。……お兄さま、あまりよく寝ていらしたので……」

「ああ、そんなことだろうと思ってたよ。でも、よく帰ってくれたね。見張りの者はいなかったの」

「いたわ、まだ。でも昨夜騒ぎすぎたとみえて、疲れて寝てるの。お兄さま、お腹おすきになったでしょ。昨日帰るつもりだったのに、たいへんなことが起こって……」

「いいや、昨日は姉さんが弁当を持ってきてくれたから」

「あら!」

典子ははじかれたように私のそばから身をひくと、懐中電燈の光で、さぐるように私の顔色をうかがいながら、

「それじゃお兄さまは、昨日、お姉さまにお会いになって?」

と、あえぐような調子だった。

「ああ、会ったよ、姉さんはぼくの腕に抱かれて息を引き取ったのだ」

ふたたび典子は悲鳴に似た声をあげて身をひくと、おののく視線で私の顔をのぞきこんだ。

「でも……でも、お兄さまじゃないのでしょう。お兄さまがあんなこと、なすったのじゃないのでしょう」

「何をいうのだ、典子ちゃん!」

私は思わず言葉を強めた。

「なんでぼくが姉さんを殺すものか。ぼくは、姉さんが好きだったんだ。姉さんを愛していたんだ。姉さんもぼくをかわいがってくれた。その姉さんをなんでぼくが殺すのだ」

しゃべっているうちに急に涙があふれてきた。滝のように滂ぼう沱だとして、熱い涙があふれてきた。息を引き取る間ぎわにささやいた、姉の言葉はともかくとして、私は姉の親切が身にしみていた。心細い私に対して示してくれた終始かわらぬ温かい態度は、私の胸の奥ふかくしみとおっていて、いまさらのようにそのひとを失った悲しみが、胸のうちにみちてくるのであった。

「お兄さま、堪忍して、堪忍してね」

典子は私の胸に身を投げかけると、

「たとえいっときでもお兄さまを疑うなんて、典子が悪かったわ。典子はお兄さまを信じていたはずなのに」

典子はちょっとためらったのち、

「でも……お兄さまがお姉さまを殺すところを見たというひとがあるもんですから……」

「吉蔵だろう。あいつがそんなふうに言いふらすのも、無理はない。あいつはぼくが姉さんの、屍体を抱いているのを見たのだから、それにあいつは元来、ぼくをとても憎んでいるんだから。しかし、典ちゃん」

私は言葉を強めて、

「警察はなにをしているのだ。警察はどうしてぼくを救いにきてくれないんだ」

「それがいけないのよ、お兄さま。春代姉さまのことがあったので、火に油を注いだように村のひとたちいよいよ手がつけられなくなって……お兄さまのことは自分たちで始末するって、人ひと垣がきをつくって、『木霊の辻』からこっち、お巡りさんを通さないんです。無理に通ろうとすると、どんなことが起こるかわからないので、お巡りさんも手をつかねているありさまなんです。でもね、お兄さま」

典子は私を勇気づけるように、

「こんなこと、いつまでもつづきゃしないわ。警察だってほうっておくはずもなし、だから、もう少しの辛抱よ。お兄さま、しっかりして」

「それゃあ典ちゃんがそういうならばぼくもがんばるが、姉さんのお弔いはだれがするんだ」

「ああ、そのことなら心配ないわ。うちの兄さんがいるから……」

「慎太郎さん……?」

突然、冷たい戦慄が、私の背筋を走りぬけた。探るように典子の顔を見直したが、典子は無邪気で、なんのわだかまりもなさそうである。

「ええ、そうよ。兄さんは軍隊育ちだから、こんなときにはテキパキしていいのよ」

「ああ、そう、そうだったね」

まるでのどに魚の骨でもひっかかったような声だった。

「それで、慎太郎さん、元気かね。どこにもけがはないかね」

典子は不思議そうに眼を見はった。

「あら、どうして? 兄さん、元気よ。どこもけがなんかありませんわ」

「ああ、そう、それはよかったね」

さりげなくいったものの、私の胸はあやしく乱れた。いったいこれはどうしたことだろう。私の考えはまちがっていたのだろうか。

姉の言葉によると、彼女は犯人の小指を、ちぎれんばかりに噛んだという。その傷がどの程度のものかわからないとしても、とかく指の傷というものは痛みやすいものである。ましてや、姉がいうように半分ちぎれそうになったといえば、その苦痛はとても人眼からかくすことはできないはずだ。

「ねえ、典ちゃん、だれか指をけがしたというような話をきかなかった? だれか左の小指に包帯してるひと見なかった?」

「いいえ、お兄さま、知らないわ。どうしてですの」

典子は依然としてただ無邪気である。

ああ、その言葉にうそがあろうとは思えない。そうすると私の考えはまちがっていたのであろうか。私はまたわけがわからなくなってきた。


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