首領はビロードの覆面の中で、さもここちよげに笑うのでした。
小林君は、あまり平気な顔をしていて、かえってうたがわれてはいけないと考え、不二夫君なら、きっとこんな顔をするだろうと思われるような、こわくて心配でたまらないという顔をして、じっとうつむいていました。
「わかったかね。よしよし、わかったら、きみの部屋が、あちらにちゃんと用意してある。部屋へいってゆっくり休むがいい。」
首領はそういって、ふたりの男になにかあいずしました。すると、男のひとりが、小林君のなわじりを取って、どこかへつれていくのです。
首領の部屋を出て、くらい廊下を少し行きますと、むこうに、動物園のおりのような鉄ごうしが、見えてきました。おや、この地下室には猛獣でもかってあるのかしら、と思っていますと、男は、
「さあ、小僧、ここがおまえの部屋だ。どうだ気にいったかね。へへへ……、居ごこちのよさそうな部屋じゃねえか。」
と、にくにくしくいいながら、小林君のなわをとって、その鉄ごうしのすみにある開き戸から、中へおしこんでしまいました。
それは、おりではなくて、地底の牢獄だったのです。小林君のための客間というのは、つまりこの鉄ごうしの牢だったのです。
男は小林君をそこに入れますと、ポケットからかぎを出して、開き戸についている錠まえに、ピチンとかぎをかけました。
「へへへ……、まあ、そこでゆっくり休むがいい。すみにはわらぶとんもおいてあるからね。それから、食いものは、三度三度ちゃんと持ってきてやるから、心配しないがいいよ。おまえをうえ死にさせちゃいけないって、首領のいいつけだからね。」
男は鉄ごうしの外から、牢の中をのぞきこみながら、さもおもしろそうにいうのです。
見ると、牢というのは、三畳じきほどのコンクリートの部屋で、くさくて、きたないわらぶとんのベッドがおいてあるほかは、ライオンやトラのおりと少しもかわりがありません。小林君は、つめたいコンクリートの床の上にすわったまま、こんなところに、しばらく住まなければならないのかと思うと、うんざりしてしまいました。
「へへへ……、いやにだまりこんでいるね。あんまり、部屋がりっぱなので、びっくりしているのかい。へへへ……、だが、おまえ小さいくせになかなか感心だねえ、ちっとも泣かないねえ。いい子だよ。ごほうびに、何か持ってきてやろうか。え、腹はへらないかね。それとも水でものむかね。」
男はいつまでも、小林君をからかっているのです。鉄ごうしに顔をくっつけるようにして、目をむいたり、口をゆがめたり、へんな顔を見せて、おもしろがっているのです。
小林君は腹がたちましたが、心の中で、
「今にみろ、ひどいめにあわせてやるから。」とつぶやきながら、じっとこらえていました。それにしても、いわれてみると、おなかは、それほどでもありませんが、のどがかわいてしかたがないのです。そこで、
「ぼく、のどがかわいたから、牛乳をください。」
と、ぶっきらぼうにいいますと、男は笑いだして、
「へへへ……、はじめて口をきいたね。牛乳をくださいか。なかなかぜいたくなことをいうねえ。よしよし、それじゃ、牛乳を持ってきてやるよ。」
といいすてたまま、どこかへ立ちさりましたが、やがて、牛乳を入れたコップを持って、もどってきました。
「さあ、ご注文の牛乳だ。毒なんかはいっていないよ。安心してのむがいい。おまえは、だいじな人質なんだからね。」
そして、小林君が牛乳をのんでいるあいだ、男はまたみょうな顔をしたり、へんなしゃれをいったりして、さんざんからかっていましたが、やがて、それにもあきたのか、開き戸の錠まえをねんいりにしらべたうえ、どこかへ行ってしまいました。
腕時計を見ますと、さいわい、こわれもせず動いていましたが、時間はもう午後の六時でした。
「よし、今のうちにねむっておこう。そして、夜中になったら、ひとはたらきするんだ。見ているがいい。きっと悪者たちの秘密をあばいてやるから。」
小林君はこんなことを考えながら、すみのわらぶとんのベッドの上に、ごろりと横になりました。春のことですから、そんなに寒いというほどでもないのです。
大胆な小林君は、やがてそのかたいわらぶとんの上で、ぐっすりねむってしまいました。しばられたり、長イスの中にとじこめられたりして、つかれていたものですから、八時間ほどもぶっとおしにねむって、目をさましたのは、もう夜中の二時でした。