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恶灵(21)

时间: 2021-08-19    进入日语论坛
核心提示:「龍ちゃん、どうしたんだ。どこへ行くのだ」 黒川先生のびっくりした様な声が聞えた。 白いものは、併し、少しも躊躇せず、黙
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「龍ちゃん、どうしたんだ。どこへ行くのだ」
 黒川先生のびっくりした様な声が聞えた。
 白いものは、併し、少しも躊躇せず、黙ったまま、宙を浮く様に進んで行く。そして、おぼろに見える二つの白い塊りが、龍ちゃんと、鞠子さんとの白っぽい洋服が、段々接近して行って、やがて、ピッタリ一つになったかと思うと、
「この人です。執念深い魂が、この人を狙っているのです」
 という、声が聞えた。と同時に、ワワ……と、笑い声とも泣き声ともつかぬ高い音が、暗闇の部屋中に拡がった。鞠子さんが死もの狂いの悲鳴を上げたのだ。
 僕はもう我慢が出来なくなって、椅子を離れると、声のした方へ駈け寄った。あちらからも、こちらからも、黒い影が、口々に何か云いながら、近づいて来た。
「早く、電気を、電気を」
 誰かが叫んだ。黒い影がスイッチの方へ走って行った。そして、パッと室内が明るくなった。
 五人の男に取り囲まれた中に、鞠子さんは黒川夫人の胸に顔を埋める様にして、取縋(とりすが)っている。その足下に、霊媒の龍ちゃんが長々と横わっていた。彼女は気力を使い果して、気を失ってしまったのだ。
 今はもう降霊術どころではなかった。黒川先生と奥さんとは、真青になって震え(おのの)く鞠子さんを慰めるのにかかり切りであったし、外の会員達は、黒川家の書生や女中と一緒になって、失神した龍ちゃんの介抱(かいほう)に努めなければならなかった。
 斯様(かよう)にして、九月二十七日の例会は、実にみじめな終りを告げたのだが、騒ぎが静まって、龍ちゃんは失神から恢復(かいふく)するし、鞠子さんも笑顔を見せる様になっても、会員達は一人も帰らなかった。帰ろうにも帰られぬ羽目になってしまったのだ。というのは「織江さん」の魂が、姉崎夫人の下手人は、そして又、鞠子さんを同じ様に殺害するという犯人は、心霊研究会の会員の中にいると明言したからだ。
 黒川先生御夫婦と鞠子さんを除いた四人の会員、熊浦氏と、園田文学士と、一寸法師の槌野君と、僕とが、応接室に集って、気拙(きまず)い顔を見合せていた。
「わしは、あの娘の、予言は、十中八九、適中すると、思う。あいつは、わしの家に、居る時分から、一度も出鱈目を、云ったことは、ないのだ」
 熊浦氏が沈黙を破って、例のザラザラした吃声で始めた。彼はそんな際にも、日頃の癖を忘れないで、他の三人からはずっと遠い、隅っこの椅子に腰かけて、電燈がまぶしいという様に、額に手をかざしていた。
「僕はどうも信じられませんね。それに下手人がこの会員の内にいるなんて、実に馬鹿馬鹿しいと思う。今夜は龍ちゃん、どうかしてたんじゃありませんか。姉崎さんの事件が、あの子の鋭敏な心に、何か暗示的に働きかけて、さっきの様な幻影を描かせたんじゃありませんか」
 僕が反駁(はんばく)した。僕は君も知っている様に常識的な男だ。霊界通信についても、他の会員達の様な盲目的な信仰は持っていない。無論会に加わっている位だから、一応の理解はあるのだけれど、信仰というよりは、寧ろ好奇心の方が(かち)を占めている程度だ。自然、こういう異常な場合になると、つい常識が頭を(もた)げて来る。

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