地獄の入り口
少年探偵団の井上少年とポケット小僧は、野村みち子ちゃんという少女を、うそをついて、どこかへつれていく、あやしい男のあとをつけていきました。
その男は、少女といっしょに、さびしい町のマンホールの中へ、消えてしまったのです。
二少年は、そのマンホールの、重いふたを、わきにずらせて、中へおりてみました。
「あれっ、へんだね。これは水道や下水やガスのマンホールじゃないよ。鉄管なんかどこにもないんだもの」
「うん、ひょっとしたら、悪者が、かってに造ったマンホールかもしれないね。そして、ここを、秘密の出入り口に使っているんだよ」
「それなら、どこかに、奥へ行ける道があるはずだね」
ふたりは、マンホールの底に立って、回りのかべを調べました。
すると、目の前のコンクリートのかべに、スーッと、細いわれ目が、できてきました。そして、それが、だんだん、太くなっていくではありませんか。
「あっ、かくし戸だっ。向こうへ、開いていく」
それは四角いコンクリートのドアでした。なにもしないのに、それが、ひとりでに開いていくのです。悪者が、わざと、中から開いているのかもしれません。
二少年は、ここで用心しなければならなかったのです。うっかりすると、敵のわなに落ちるかもしれないからです。
しかし、井上君もポケット小僧も、大たんな少年ですから、にげだすことなど少しも考えません。
かくし戸が開いたのをさいわいに、すぐ、その中へ、もぐりこんでいきました。
まっくらです。ふたりとも万年筆型の懐中電燈を持っていましたから、それを出して、照らしてみました。だれもいません。コンクリートのかくし戸は、電気じかけで、遠くから、あけたり、しめたりできるのかもしれません。
くらいトンネルのような横穴を、しばらく行くと、またドアがあって、それも、ひとりでに、すうっと開きました。
ドアの向こうは、小さいへやのようになっていて、血のように赤い電燈が、ぼんやりついていました。
「うふふふふ……やってきたね。待っていたよ。いま、きみたちに、おもしろいものを見せてやるぞ」
しゃがれた、低い声が聞こえてきました。ぎょっとして、へやのすみを見ると、そこのいすに、なんともいえない、きみのわるいやつがこしかけていました。
頭には、もじゃもじゃと、しらががみだれ、白いあごひげが、胸をかくし、せなかは二つに折れたように曲がった、八十ぐらいのじいさんです。それが、こじきのような、ぼろぼろの服をきて、うずくまっているのです。
「きみはだれですかっ」
井上少年が、少しもおそれないで、たずねました。
「わしは地の底のぬしじゃよ」じいさんのしゃがれ声が、答えます。
「ここへ、人形みたいな顔の男の人が、小さい女の子を連れて、はいってきたでしょう」
「うふふふふ……はいってきたよ。だが、きみたちは、それをどうしようというのだね。女の子を助けにきたのかね」
「そうです。女の子は、かどわかされたのです。ぼくたちは、それをたしかめて、警察に知らせるのです」
「うふふふふ……なかなか、勇気のある子どもたちじゃ。そんなら、奥へはいって、調べてみるがいい。だが、用心しなさいよ。ここは地獄の入り口だ。いろいろなおそろしいものがいるぞ。うふふふふ……おそろしいものがね」じいさんは、それっきり、からだを二つに折るようにして、うつむいたまま、だまりこんでしまいました。二少年は、少しきみがわるくなってきました。
「ね、もうわかったから、そとへ出て、警察に知らせようよ」
ポケット小僧が、そっとささやきました。井上君も、その気になって、さっきはいってきたドアのところへ、かけよりましたが、押しても、引いても、ドアが開きません。がんじょうな、ドアですから、いくら井上君の力でも、どうすることもできません。
「あっ、ぼくらは、とじこめられてしまった」
そうです。もう、そとへ出られなくなってしまったのです。
「しかたがない。奥へはいってみよう。奥には、どっかへぬけられる道があるかもしれない」ふたりは、そのへやの小さい出入り口から、奥へ、ふみこんでいきました。