BDバッジ
井上君たちが、へびにかこまれてこまっていた、ちょうどそのころ、おなじ練馬区にすんでいる、少年探偵団員で、小学校六年生の、山村始君が、小公園の中を通りかかりました。人形のかおをした怪人が、野村みち子ちゃんをかどわかしていった、あの小公園です。
すると、小公園のかたすみで、小学校一年生ぐらいの、小さな三人の男の子が、地面に銀貨のようなものをおき、手にもっているべつの銀貨をなげて、それにあてっこをしてあそんでいるのに気がつきました。
「きみたち、そんなこと、やるとしかられるよ」
山村君は、おもわず、こえをかけました。銀貨のやりとりをする、ばくちのようなことをやっているのではないかとおもったからです。
ところが、そばによって、よく見ますと、それは銀貨でないことがわかりました。少年探偵団の記章のBDバッジだったのです。三人のこどもが、みんな一つか二つずつ、BDバッジをもっているのです。山村君はびっくりしました。
「きみたち、それ、どうしてもっているの? だれかにもらったの?」
と、たずねますと、こどものひとりが、こたえました。
「ひろったんだよ。あっちのマンホールのそばにおちてたんだよ」
「ふうん、それみんな、そこにおちてたの? いくつあった?」
「六つだよ」
「ちょっと、見せてごらん」
山村君は、BDバッジをあつめて、うらをしらべました。バッジのうらには、針のさきで、持ち主の名がほってあるはずだからです。
四つのバッジには「いのうえ」と、ほってあり、二つのバッジには「ポケット」と、ほってありました。
「あっ、井上君とポケット小僧だっ」
これが地面に、ばらまいてあったからには、ふたりの身の上に、しんぱいなことが、おこっているのかもしれません。
「そのマンホールって、どこにあるの?」
山村君は、こどもたちに、あんないさせて、公園から六、七百メートルはなれた、さびしい町の、マンホールのところまで、いってみました。
「たしかに、ここにおちていたんだね」
「そうだよ。マンホールのまわりに、ばらまいてあったよ」
井上君とポケット小僧は、このマンホールの中へ、はいっていったのかもしれないとおもいました。しかし、鉄のふたは重いので、山村君ひとりでは、どうすることもできません。
「そうだ。ともかく、小林団長に知らせよう」
山村君は、商店のならんでいる町のほうへ、かけ出していって、赤電話で、明智探偵事務所の小林少年に、このことを知らせました。
「よしっ、じゃあ、ぼくが自動車をとばしていくから、そこにまっててくれたまえ」小林団長はそう言って、場所をくわしくきいてから、電話を切りました。
三十分ほどすると、小林団長は「アケチ一号」の自動車を運転して、かけつけてきました。
そして、山村君とふたりで、マンホールのふたを、ずらせて、中へはいってみましたが、コンクリートのひみつ戸はしまったままになっていて、ふたりの力では、どうすることもできません。
小林少年は、自動車へもどって、無電で明智事務所をよび出し、明智先生に、このことをほうこくしました。
「たしかに、あやしいマンホールです。鉄管なんか一つも通ってません。それに、コンクリートのひみつ戸があるんですが、どうしても、あきません。警視庁の中村さんにれんらくして、コンクリートをこわしてもらってはどうでしょう」
すると、明智先生は、
「そんな手あらいことをしては、あい手がにげてしまうよ。そのマンホールから、ちかくの、どっかのやしきの中へ、ひみつの通路ができているにちがいない。君たちふたりで、一けん一けん、しらべてみるんだ。あいてにさとられぬようにね。見つかったら、野球のボールが、おたくのへいの中へおちましたから、ひろわせてくださいと、言えばいいんだ。こういうしらべは、君たちのような少年のほうが、うまくいくんだよ」
「じゃあ、やってみます」
小林少年は、げんきよくこたえて、無電をきり、いよいよ、山村君とふたりで、そのきんじょの、大きなやしきを、一けん一けんしらべてみることになりました。