窓の顔
少年探偵団長の小林少年と、BDバッジを見つけた山村少年は、あのマンホールのちかくにある大きなやしきを、一けん一けん、さぐりあるいていました。
もう太陽がしずみかけて、あたりは、うすぐらくなっていました。
二けんは、なんのあやしいこともなく、いま三げんめのやしきに、しのびこんだところです。コンクリートべいに、鉄の門がついていて、大きい門はしまっていましたが、わきの小さい門が、あいていたので、そこから、しのびこんだのです。なんだか、あやしげなやしきでした。庭には、ぼうぼうと草がのびていますし、古ぼけた木造の二階建て洋館は、おばけやしきのように、あれはてています。
門に名札が出ていないので、だれのうちかわかりません。もしかしたら、あき家かもしれないのです。しかしここには何者かが、住んでいるという感じがします。人間だか、人間でない動物だかわかりませんが、なにかがいるにちがいないと思われました。
小林、山村の二少年は、ポーチのよこの、やぶれたかきねから、うら庭のほうへしのびこんでいきました。そして、建物を、よこから、ながめたのですが、やっぱり、どの窓もしまったままで、人のけはいはありません。そのくせ、このうすぐらい建物の中には、なにものかが、うごめいているという感じが、だんだん、つよくなってくるのです。
ふたりは、あれはてた庭の木のしげみにうずくまって、目のまえの建物を、じっと見つめていました。空はまだ、あかるいのですが、庭は、ほとんど、くらくなり、大きな建物が、黒い怪物のように、そびえているのです。
そのとき、ふたりは、ギョッとして、きき耳をたてました。とつぜん、家の中から、人の声がひびいてきたからです。
「たすけてえ……、だれかきてえ……」
二階の窓から、白いものが、のぞきました。人の顔です。それも、小さいこどもの顔のようです。
「あっ、女の子だっ」
小林君が思わず声をたてました。
それは野村みち子ちゃんだったのです。怪人のすきをうかがって、窓ぎわにかけより、たすけをもとめたのにちがいありません。
しかし、小林君たちは、みち子ちゃんが怪人にかどわかされたことは、すこしも知りませんから、その女の子がだれかは、わからないのですが、いずれにしても、小さい女の子が、たすけをもとめるというのは、ただごとではありません。この家にあやしいやつが、住んでいることは、もうまちがいないのです。
「たすけてえ……、たすけてえ……」
また、つんざくような、さけび声。
すると、その少女の顔のうしろから、もう一つの顔が、ヌーッとあらわれたかと思うと、少女をだきすくめるようにして、そのまま、おくへきえていきました。小林君は、夕やみの中に、その顔を見ました。それはお面のように、動かない顔でした。じつに、えたいの知れない、きみのわるい顔だったのです。
「あっ、あの人形みたいな顔。ひょっとしたら、デパートで人形にばけて、宝石をぬすんだやつかもしれないぞっ」
小林君は、ハッと、それに気がついたのでした。