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蛇神2-6-6

时间: 2019-03-24    进入日语论坛
核心提示:    6 気が付くと、いつのまにか、あの蛇ノ口のほとりに立っていた。 あたりは夕暮れか夜明け前のように仄暗《ほのぐら》
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     6
 
 ……気が付くと、いつのまにか、あの蛇ノ口のほとりに立っていた。
 あたりは夕暮れか夜明け前のように仄暗《ほのぐら》い。赤褐色の沼は、錆《さ》びた巨《おお》きな鏡のように、不気味な静けさを湛《たた》えて、日美香の前に横たわっている。
 この沼は、千年以上にもわたって、数え切れないほどの幼い日女たちの身体を呑《の》み込んできたのだ……。
 そう思ったときだった。
 どこからともなく笑い声が響いた。
 子供のような声だった。
 それは最初はくすくすと忍び笑いだったのだが、だんだん、あはははという高笑いに変わっていった。
 子供の笑い声は沼の周囲を覆う木立ちから降ってくるようにも、あるいは、沼の奥底から響いてくるようにも思われた。
 そのとき……。
 あたりを見回していた日美香の目がとらえたのは、沼の中央に忽然《こつぜん》と浮かび上がった幼女の顔だった。
 オカッパ頭の白い首が沼の真ん中にぽっかりと浮かんでこちらを見つめている。
 その顔に見覚えがあった。
 春菜……姉さん?
 それは、写真で見た春菜にそっくりだった。
 幼女の首は笑いながら、ちょうど白い毬《まり》が水面を滑るように、沼の表面を滑って日美香の足元まで近づいてきた。
 そして、そのきらきらと輝く澄んだ目で日美香を見上げた。
 赤い唇が動き何か言おうとしている。
 お……い……で……
 おいで?
 日美香は両足首に異変を感じた。
 見ると、沼の縁から突き出た白く細い葦《あし》のようなものが両足首にからみついていた。
 幼女の手だった。
 沼の縁からぬっと突き出た両腕が、獲物を求める白蛇のように伸びてきて、その小さな手が日美香の両足首をつかんだのだ。
 とその瞬間、もの凄《すご》い力で沼底にひきずりこまれた。
 悲鳴をあげる間もなかった。
 日美香の身体はずぶずぶと沼にひきずりこまれていった。
 異臭を放つ泥が鼻や口の中にはいってきた。
 息ができない。
 苦しい……。
 恐怖と苦しさで日美香は意識を失った……。
 
 目を開けると……。
 目の前に、異様な人物が座っていた。
 単眼の憤怒《ふんぬ》の形相《ぎようそう》。
 武人のような逞《たくま》しい上半身に、とぐろを巻いた大蛇の下半身……。
 それは、日の本寺で見た大神の姿だった。
 蛇神の周囲には、夥《おびただ》しい数の、白袴《しらばかま》姿の幼い少女たちが楽しそうに笑いながらまとわりついている。
 一夜日女《ひとよひるめ》たちだった。
 その中には、日美香を沼にひきずりこんだ春菜の顔もあった。
 少女たちの白ずくめの身体は宙に浮いており、長い黒髪が海草のように上方にゆらめいている。
 ここは沼底……?
 ふと、日美香は自分が手に何か持っていることに気が付いた。
 それは、装飾のついた一振りの古びた大剣だった。
 それが最初は羽毛のように軽かったのに、少しずつ手の中で重くなっていき、やがて持っているのが苦痛に感じるほど重くなった。
 日美香はその大剣を蛇神の前に差し出した。
 すると……。
 胸のあたりで組み合わされていた蛇神の両腕がするすると伸びてきて、その剣をつかんだかと思うと、蛇神の両手は大剣を捧《ささ》げもつような格好で、再び胸のあたりで組み合わされた。
 そして、戻された剣を捧げもつ蛇神の顔に変化が現れた。
 憤怒の形相が次第に消えていく……。
 日美香は沼底にひきずりこまれたときの恐怖も苦痛も忘れて、蛇神の口元に満足そうな微笑が浮かぶのを見ていた。
 やがて……。
 蛇神を見つめる日美香の口元にもかすかな笑みが浮かんだ。
 
 ……目を覚ましたとき、日美香は布団の中にいた。
 夢?
 どうやら、夢を見ていたらしい。
 うっすらと汗をかいていた。
 窓は夜が明けはじめていることを示すような仄白《ほのじろ》さで染まっている。
 昨夜、神聖二の話を聞いたあと、なかなか眠れず、布団の中で何時間も輾転反側《てんてんはんそく》していたことまでは覚えていた。
 聖二の話の大部分は、達川正輝の推理を裏付けるものでしかなかったが、ひとつだけ、日美香に大きな衝撃を与えたことがあった。
 自分の父親が新庄貴明だったということである。こればかりは想像すらしていなかった。
 あの人が……。
 日美香は週刊誌のグラビアやテレビの中でしか見たことのない男の顔を思い浮かべた。今までの彼女にとっては雲の上の存在だった男の顔を。
 あの人がわたしの父親……。
 不思議な気持ちがした。
 それに、今見た夢……。
 奇怪な夢だった。
 まるで何かを暗示するような……。
 日美香は布団の中で仰向《あおむ》けになって、じっと天井を見つめた。
 養母の遺品の中から真鍋の本を見つけてからというもの、自分の中で少しずつ起こっていた変化が、今や、完全にこれまでの自分をくつがえしてしまったのを感じていた。
 わたしはもう……。
 今までのわたしじゃない。
 わたしにはやるべきことがある。
 それは……。
 あの夢が教えてくれた……。
 日美香はあることを決心していた。
 やがて、どこかで夜明けを告げる鶏のかん高い鳴き声がした。
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